健康診断


 新幹線と普通電車を乗り継いでから、徒歩十分。鳴波漁港の鳴波病院についたのは午前十一時のことだった。


 己龍とはいつも仕事の時しか顔を合わせていないため、これが一緒に行動する初めての休暇ということになる。そもそも己龍の場合、探偵事務所には所属していないため、俺と一緒にいるのは仕事ではなく、暇潰しということになる。


「一応、健康診断に来たが……」


 俺は待合室の隣で同じように順番を待っている己龍を見た。


 待合室には人がほとんどいない。先ほど、診察室に案内されている若い男性はいたが、彼がいなくなって、待合室には俺たちだけが残された。


「お前、どうやって健康診断するんだ?」


 見た目は普通の人間だが、彼の身体はロボットだ。心臓もなければ、脳みそもない。本体は別のところにいて、機械に繋がれて眠っているはずだ。


 己龍は小首を傾げてから、八重歯を覗かせて笑った。


「ちょちょいっと誤魔化しておくわ」

「いや、誤魔化すって……」


 何も考えていなさそうな己龍に物申そうとしたところ、俺よりも先に己龍の名が看護師に呼ばれ、彼は俺の言葉など一言も聞かずに診察室へと移動してしまった。


 俺は手元に用意している健康診断の結果を記入する紙に視線を落とした。身長と体重を測るのは、大学時代以来だ。健康診断は定期的にしないといけないとは思いつつ、一度も自分から健康診断を受けようとしなかった。


 もしかしたら、大学の時代から少しは身長が伸びているのかもしれない。

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