本の監獄

十坂真黑

本の監獄

 俺は本だ。多くの人に感動や衝撃を与えるため作り出された。

 俺の主は小学生の少年。


 子供というのは本を大事にしない。


 裏表紙に自分の名前を書くだけならまだいい。だが……。

 ポテチ食いながら読むな! 油染みできるわ食べカスが間に挟まるだろうが!


 ページ開いたまま伏せるんじゃない! 俺を買った時についてきた栞はどうした?


 終いには俺を読み終えると、主は鉛筆を手にしにやりと笑う。

 

 何をするつもりだ? ……まさか。

 や、やめろ! 俺は推理小説だぞ? 犯人が誰なのかを読みながら考えるのが醍醐味だろ? 目次の登場人物のところに『こいつ犯人』とかメモるな! 


 今日も繰り返される主の悪行に、俺はほとほとうんざりしていた。

 はあ……まるでここは本の監獄だな。


 だが俺はこの時に気がつくべきだったのだ。

 一度読み終えられた本の末路について。


 数日後、おれは他の本たちと共に雑に段ボール箱に詰められ、どこかへ運ばれる。

 ……これで俺もブック●フいきか。


 気が付くと、俺は古本屋の本棚に並べられていた。

 俺を買う者は長年現れなかった。


 どれくらいの年月が経っただろうか。


 突然開かれた視界。あまりのまぶしさに目が眩んだ。

 何者かの温かい指先が、黄ばんだ俺のページに触れる。

 俺を手に取ったのは友人同士らしい二人組の男の片割れ。

 男はあっ、と声を漏らす。

「この本、僕が昔売った奴だ」

「え? ……ほんとだ。名前書いてある」

「もう十年前だよ? 信じらんね、まだ売れ残ってたんだ」

 なんと、彼は青年になった主だった。

「名前まで書いたんだから、お前が買うしかねえよ。ってかよくこの店買い取ってくれたな」

「そうだね、買い直すか」

 俺は結局、あの監獄ほんだなに戻る運命なのだろう。やれやれ。

 ……別に嬉しくなんかないんだからな?   

 ……ぐすっ。

「この本、湿気かなんかでよれてね?」

「ほんとだ。やっぱいらないかなー」

 そう言って主は俺をぱたんと閉じ、本棚に戻した。


 おいっ!

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