第48話 Cleaning up(後片付け)
天星町、町外れの山の上の、天星神社。
晴れた日の朝、その離れからニュースの音が漏れ聞こえている。
『昨日またしても発令された撃墜警報ですが、今回はUFOからの侵略兵器が投下されたと、インターネット上で話題になっています。こちらの視聴者映像によりますと、嵐の中、グラウンド方面で何か巨大な物体の影が戦っているようなものが映っていますが……教授、これはどのような映像だと考えられますでしょうか』
『そうですねぇ……映像が不鮮明でよくわかりませんが、そもそもマルス襲来を踏まえて考えれば、異星人がそういった巨大兵器を投下してくることは全く不思議でないわけでありまして、今回そのような意識が国民の皆様に少しでも芽生えたのであれば私は研究者として……』
――ぷつん、とテレビの画面が黒くなる。
ニュース映像が消えた画面には、怒りを露わにした顔のノヴァが、リモコンを持って怒りに震えていた。
「まったくもう、失礼しちゃう! お母さんは侵略しに来たんじゃないのに!」
その身体は五体満足、完全に修復し終えた状態で怒りに任せてむしゃむしゃと白米を食べている。
「まだ仕方ないさ、それにしてもマルス教も油断できないねぇ、しっかり人払いをやってくれてたわけだ」
「役には立ったけどキモかったなー……ノヴァ、醤油取って」
「しょうゆってこれだよね、はい」
「……ふが」
朝食を囲む彦善、夕映、ノヴァ、せきなだったが、その中で彦善だけは、全身を包帯でぐるぐる巻きにされていた。
最初は誰も何も言わなかったが流石に彦善にも我慢の限界が来たので、
「……あのさ、僕の分は?」
と、抗議の声を上げた。
「重症者が何言ってんだい、さっきまでキミ、ベッドから動けなかったじゃないか。今朝まで人工呼吸器つけてたんだぞ」
「そりゃそうですけども、なんかどんどん体が治るんですよ僕にもご飯ください」
「だーめ。まだ内臓が治ってないかもしれないだろ、おかゆを用意させてるから待ってなさい」
「そうだぞ彦善、無茶しやがって、罰として大人しくしてろ。後で食べさせてやるから」
「……はぁ」
あの戦いのあと意識を失って倒れた彦善は、どうやら天星神社に担ぎ込まれたらしい。普段から神社にあるはずもない医療機器で治療されたらしかったが、何よりもノヴァの万能ナノマシンが効いたのは明らかだった。
「18箇所の骨折から始まって、内臓損傷も数知れず。出血や筋肉の断裂、切り傷と擦過傷……ボロボロだったはずなんだけどねぇ。ものすごくお腹空いてないかい?」
「めちゃ空いてます」
「だろうね。まずは水をたくさん飲むと良い」
「……すげーな、万能ナノマシンって」
夕映がぽつりとこぼした言葉に、ノヴァが頬張っていた白米を飲み込んで真剣な表情に変わった。
「……ううん、凄いのはお兄ちゃんとお姉ちゃんだよ。私なんて……二人を巻き込んだだけだし」
「ノヴァ……」
「ご馳走さま。あの……ちょっと私外に」
「ノヴァ」
彦善が声をかけて、ノヴァが扉を向いたまま足を止める。
「僕らと帰るぞ。良いな、ノヴァ」
「……良いの? お姉ちゃんにだって迷惑が……」
「今更だよ。っつーかノヴァがどっか行ったらウチが危険になりそうでヤダ」
「でも……えっと、その……お兄ちゃんだって大怪我したし……」
「お前もだろ。ノヴァ、あんまり言うと怒るよ」
「……」
返事は無くて、その後ろをセバスチャンがついて行って、扉が閉まる。
「……あいつ、大丈夫かよ」
「むしろ夕映は良いの?」
「は? 良いわけ無いだろ死にたくないよ。でも……さ、じゃあノヴァを見捨てて、いつも通りの日常に戻れるかって言うと……」
「可能だよ?」
「え?」
麦茶を口にしながら、平然とせきなが言った。
「僕のツテで君らの記憶を消して、どっか遠い街に放り出してあげるくらいならできるよ」
「えっ……」
「あの……」
「でも君たちならそう言う顔をすると思ったからねぇ。ま、君らの人生だ、好きにやんな」
突き放すような、それでいて背中を押すような言葉の直後、トントン、と扉が叩かれて、彦善の朝食が運ばれてくる。
それを食べ終わった頃、二人のもとにノヴァが戻って来て……
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、話があるの……来てくれないかな」
そう言われ、二人は隣の部屋に連れられて行った。
「片付けはやっておくよ」
「ありがとう、せきなさん」
「良いってことさ」
そして、隣の部屋。
畳敷きの部屋には何もなく、コチコチと時計の針の音だけがしている。
「……お兄ちゃん、お姉ちゃん、えっと
まずは本当にありがとう。でね、私……お兄ちゃんにちゃんと言ってないことがあるんだ」
「言ってないこと?」
「初めて会った時にね、私、お兄ちゃんの頭に情報を刷り込んだの、私がお兄ちゃんの妹って……この瞳で」
そう告げたノヴァの瞳は、宝石のように赤い。
「でも無理があったのかな、結局すぐバレちゃった。だから失敗したって思ったんだけど……お兄ちゃんもお姉ちゃんも、すごく優しくて……私、二人を自分の都合の良いように操ってるんじゃないかって……思ってた」
「……あー、そりゃコイツがバカでお人好しで考えなしでアホなだけだぞ、さすがにもう分かっただろ」
「ちょ、夕映……」
「うん……」
「うん!?」
彦善はショックを受けたようだったが、ノヴァと夕映にしてみれば今更だった。
「だからね、私、お兄ちゃんって呼ぶのがちょっと辛いの。私が呼ばせた呼び名じゃなくて……違う呼び名が良い」
「……良いんじゃねえの、好きにすれば」
「僕も反対はしないけど」
「ありがとう。じゃあ、『マスター』って呼ばせて?」
「マスター?」
「私を使ってくれる……唯一の人って意味。ダメかな」
「ダメじゃないけど……」
ちらりと彦善は夕映を横目で見る。
しかし夕映は、
「……まさか私もマスターになれとか言うなよ」
「嫌なの?」
「お前見てて誰がなりたいと思うかバーカ! お前に何かあったら、私はあの部屋で死ぬだけなんだよ。だから私はお前とあの部屋が無事ならそれで良いの」
「そっか」
「うん」
「じゃあ……これからもよろしくね、マスター」
「ああ、よろしく」
そして3人は誰から言うともなく、家族のように抱き合った。
そして時計の分針が少し進んだ頃、離れのチャイムが鳴って、せきながそれに応対する。そしてノックのあとに彦善たちがいる扉を開けて、
「お客さんなんだけど、入れて良いかな」
「お客さん?」
「うん、君らも知ってる子」
その言葉に全員心当たりは無かったが、
「失礼します!」
「あ」
声で理解できた。
ハイテンポかつおとなしい足音のあと、せきなの後ろから飛び出したのは、
「ヒコヨシ様ーっ!!」
「アリスさん!?」
――ゴスロリ服の、アリスだった。
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