第24話 Party(会合)
「……いや、どの口が言ってんだよ」
その言葉に驚いたのは、彦善以外の全員だった。
しかし全員が1秒ほど思考したところで、生まれた雰囲気は『納得』。一人だけ戸惑う顔をしたのは、アリスだった。
「え?」
「いやあの、え? じゃなくてさ。僕、キミらに学校で殺されそうになったんだけど? それが正々堂々とか言い出すのちょっと意味が分からないんだけど……もしかしてまだ僕ら、無かったことにしろ的な意味で、脅されてる?」
「えっ……学校……? え?」
「え?」
お互いに状況が理解できず、疑問符ばかりが浮かぶ部屋。
「ごめんなさい、貴方が何を言ってるのかよく分からないんだけど……私、今日はここに着いてからずっと、身体を清めてただけなの。だから私も、もちろんせきな様も、ましてや私と契約してくれたヴァンシップの八咫も、そんなヒキョウなマネなんてするはずがないわ!」
そこに高らかに、アリスの声が響き渡った。
「彦善、コイツもう殺していいかな」
「待って待って、流石に嘘には見えないんだけど……え? どういうこと?」
視線が自然とせきなに向いて、はぁ、とため息が返る。
「アリスちゃん、すごく言いにくいんだけどね、実は……ヒソヒソ」
「……え゛?」
そして何やら耳打ちをされると、アリスは顔面から血の気を引かせて、
「お祖父様が……そんなことを……?」
「ついでにそこの八咫も一枚噛んでるよ」
ぎくり、と身体を跳ねさせて、八咫が身体ごと視線から逃げようとする。
「ど、どうして……? わ、わたくし、信用されてなかったの……? お兄様の代わりに、頑張ろうって、決めたのに、お祖父様がそんなこと……」
はらはらと、泣き始めた。
「いやあのさあ、泣いてんじゃねぇよ。こっちは……なんだヒコヨシその同情した目はぁ!! 絶対お前今『あっ、この子可哀想だな……』って思ってるだろ! 死ね!!」
「怒りが直球過ぎる! いやでもさ、この子を責めたところで僕らは安全にならないわけじゃん?」
「ん……そりゃまぁ……」
「ならまず話し合おうよ、誤解があるなら余計にさ」
「分かったよバカヒコヨシ!」
「……なんて言うか、大人が余計なことして本当にごめんね。改めて言うけど、今日カグヤくんを襲われたのは、そこの八咫と彼女の祖父、田中武蔵……知ってるかな?この町の警察署署長がやったことなんだ」
「え……あの署長さんが!?」
反応したのは彦善だった。
「いや、知ってんのかよ」
「ボランティア部のゴミ拾い活動で、何回か会ってるし……」
「あっそ」
心底どうでも良さそうに夕映が言い放ったが、彦善の記憶の中では善良な、率先して河川敷のゴミ拾いに参加するあの人がまさか……と、妙なショックを受けている。
「ごほん、ともあれアイツとはもう縁を切らせて貰ったんだ。そう言う意味じゃ変な話だけど、僕の力でキミ達を守ることも考えてる」
「守る……って言うのは?」
「そのまんまの意味さ。キミ達を殺して僕らに利をもたらそうってお節介な奴らは、正直どれだけいるかわからないしね」
「せきなさん、それは……」
「そんな顔しないでくれよ夕映ちゃん。僕は大人として、善良な青少年の味方でいたいだけだよ」
「……」
赤の他人が言えば胡散臭いセリフも、夕映が知っている人間――上流階級の人間が言えば、真剣味も異なって伝わる。
しかしそれでなくとも、彼女の底にある人柄が放つ力が『この人は本気だ』と、確信させる言葉だった。
「で、だ。雰囲気で察してもらえるとありがたいんだけど、僕とそこのアリスちゃんは別に、この『闘い』を殺し合いにする気は無いんだよね。キミ達もその辺の考えは同じだろう? だからこそここへ来てくれたと思っているんだが、どうなんだい? カグヤくん」
「まぁ……同じですね。殺し合いとか普通に嫌です」
「キミは殺されかけたのに、かい?」
「はい」
彦善のその声と態度に迷いはなかったが、それを聞いて少し不満そうな夕映と、へぇー、と感心したような視線を向けるノヴァ。そして若干、彦善が夕映と目を合わせないようにしている。
「なるほど、つまりこの場の皆様は、死者が出ることを避けたい、ということですね?」
その時、ノヴァの方のセバスチャンが声を上げた。
「反対かい?」
「いいえ。むしろお互い、損害や禍根が少なく済むのであれば、それは今のような序盤において、十分に有益と判断できます」
「ふぅん。キミも……いや、キミ達も同意見かい?」
そうせきなが自分の陣営に尋ねると、まずせきな側のセバスチャンが浮かんで、
「我々セバスチャンは価値観をほぼ同一にインストールしてあります。よって同意見です」
と、男の声で言った。
「アリスちゃんは?」
「私も、人が死ぬのは、極力さけたい……です」
「八咫も、同意見」
「なるほど、承知しました。では情報を整理いたしますので少々お待ち下さい」
聞きながら、そりゃそうだよな、と彦善は思った。
誰しも殺し合いなどよほど嫌がるのが普通で、たまたま自分は普通ではない異常者に絡まれただけなのだ――と、狂いかけていた『常識』を、言い聞かせるように取り戻す。
「……」
その間、彦善の身体に浮かんだ冷や汗を、気にする人間はこの場に居なかった。
「では改めまして、まずは御礼を。穏便に『闘い』が終わることは、現状の我々にとって有益です。先に刃を向けた非礼をお詫びするとともに、そちらの姿勢に感謝いたします」
「……」
響いた声は男の声で、彦善はその先の言葉を待ったが、夕映は疑いの目を全力で向けている。
「しかしこの闘い……ポリオが、『アーク』の皆様に捧げる闘いであることもまた事実。そういったわけで【
「決闘?」
「はい。互いに互いの望むものを賭け、ルールに則って闘い、勝者が敗者から戦利品を得る。いかがでしょうか?」
穏やかなその声で放たれる言葉には、一定の説得力がある。
「……また学校を吹っ飛ばされるよりは良いかな」
「ではそのような方向で話を進めましょう」
そう言った、その時だった。
ふぅ、と誰かがため息をついて、彦善がその方向を見る。するとせきなが安堵したように、胸を撫で下ろしていた。
「で、決闘って具体的に何するんだ?」
「それも今から決めたいのですが、私共はこのような場合、他人の目がない空間での一騎打ちを推奨いたしております」
「なあんだ、オススメのプランがあったのかい」
「はい、しかしアークの皆様はあくまでこれを次善の策としています。日々襲来するUFOの事を考えれば、ご理解頂けるかと」
「『マルス』みたいな存在がまた来たときに、行儀よく決闘に応じてくれるとは思えないからねぇ」
「おっしゃる通りです。闘いのデータはそこに活かしてこそですから」
(……?)
その言葉を耳にした時、一瞬だけ、彦善の身体に違和感が奔った。
「お兄ちゃん、どうかした?」
「あ、いや……」
左腕が、わずかにぴくりと動いたような気がしたのだ。
しかし
「……続けます。しかしながら周囲に甚大な被害が出るのもまた別種の不都合です。まだ今回の
「仮にそう決まったとして、どこでやるんだい?」
「それも相談で決めて頂ければ問題ありません。我々セバスチャンとしては従うのみです」
「ふぅん」
「決闘……」
アリスがそう呟いて、目線はノヴァに向く。対する彦善と夕映も、対戦相手である敵のヴァンシップ――八咫を見た。
人形めいた彼女たちは確かに言われれば人間ではないとわかるものの、闘いと言うよりは美しさが先に立つ。それなりに超常的な技術を見ても尚、彼女たちが闘う存在にはとても見えないわけで――
「……あの、一つ良いですか?」
口を開いたのは彦善で、そう言わせたのはこの場の空気。
「なんだい?」
「聞きたいことがありまして」
「構わないよ」
答えたのはせきなで、彦善の視線の先には、アリスと八咫。
「キミ達は、なんで勝ちたいんですか?」
告げられた言葉は、場の空気を止めるのに、十分な威力を持っていた。
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