明日なる僕はマッドサイエンティスト: 異世界で狂気の天才科学者を目指したけど、凡人な僕は被検体を無下にすることなんてできませんでした
小南ミカン
第1話 強キャラなマッドサイエンティストなんて実在しない
僕の夢はいつからか、マッドなサイエンティストになることだった。
ただの科学者ではない。
それにただマッドでもダメだ。
敵の弱点を颯爽と看破し、完璧な対抗策で脅威に対処する強キャラ。
そんな漫画やアニメに登場する設定が、僕の夢だった。
けれど、ぶっちゃけて言うと、これまでの人類史にそんな人物はいない。
生物兵器を開発してたり人体実験してたりするようなマッドな人物は実在するが、残念ながら発明品で戦闘するような人間は、僕の知る限り絶無だ。
まあ、当たり前といえば当たり前の話で、そもそも科学者は前線で戦うような人材じゃない。
高い知能が求められるという時点で学者は人材的にレアだし、育成に必要なコストも戦闘員の比ではない。
統治する上の話でなくとも、学者本人の側からしてもそうだ。死んだり痛い思いをしたり、心に傷を負ったりする可能性がある戦場になんて、誰も行きたくないのだ。
それでも、科学者がマッドな研究成果を戦場で試すというだけなら、科学者になった後で軍にでも志願すればなんとかなるかもしれない。
だが、それではひ弱な人間が戦地に立つだけだ。犬死するのがオチ。何の意味もないし、そんなお荷物キャラは僕の目指すマッドサイエンティストの姿じゃない。
そう、マッドサイエンティストとは、強くなければいけない。
単純に本人が強い必要はない。
あくまで研究成果が強いだけでもいい。
戦場で上から目線で研究を進めるような、そんな余裕が必須なのだ。
しかしながら、現実は非情。
戦地に立つ人間は皆が皆、死の淵に立たされる。
思うにこの世界は、マッドサイエンティストが活躍するには攻め手が強すぎるのだ。
銃弾が少し当たっただけで人は倒れるし、何十にも防御を敷いたところで遠方から飛来する砲撃は大体の物を粉砕する。
化学兵器といったマッドな産物が役立っても、それに科学的対策をするより、より強い兵器を作って相手にぶつけた方がいい。
野蛮だ。
ちょっと運が悪ければ、死んでしまうような。そんなもしもが常に付き纏うような環境で、科学者が前線に出るわけがない。
そりゃあ参謀も政治家もお偉いさん方は揃いも揃って、後方とも言えないほどに前線から遠く離れたところから、ぬくぬくしながら一方的に通信で指示を飛ばしてくるわけである。
僕もこんな状況を変えようと、電磁フィールドとか防御に秀でた技術の一つでも開発しようとした。
けれど、ここにも壁が立ちはだかる。
僕は、漫画のキャラのような天才ではないのだ。
息子に似せようとして人の心と原子力のスーパーパワーを持つロボットなんて作れないし。ジャンクから熱プラズマ反応炉やパワードスーツは作れない。宇宙のロマンを追い求めて、既存兵器とついでに男女観もぶち壊す宇宙服なんてものも開発できない。
仮に僕が天才だったとしても、この世界に現れる天才のレベルでは、僕が求めるような技術革新は果たせないのだろう。
まあたぶん、そもそもこの世界の物理法則が、そんなものを許しはしないようにできている。
ああ、そうだ。
この世界に生まれ出でた科学や技術は、本当にバランスが悪い。
いかに高性能な耐衝撃スーツを着こんだとしても、ダンプカーにはひき殺されるのが、この世界の現実なのだ。
僕はそのつまらない現実と、引きちぎれて血まみれの白衣を、倒れ伏した視界から眺めていた。
そう、マッドサイエンティストになれなかった僕は、明日の交番の交通事故死者数に1つ数値を加えるだけの存在なのだ。
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