第5話・スカイハイ
泉水は警視庁を出ると、大きく伸びをした。
「疲れた。いやぁ、一時はどうなることかと思ったけど、良かった良かった」
泉水はケロリとした顔で、傍目の警察官の訝しげな表情を気にも止めずに叫んだ。
「しかもいい人見つけちゃったし。警視庁捜査二課所属刑事、黒咲晴くんね」
細く引き締まった体を包むスーツは上品で、泥臭い刑事のイメージとは百八十度違った。
そこから覗く長くて綺麗な指は色っぽく、少し癖のある猫っ毛の黒髪も柔らかそうでうっかりしたら撫でそうになった。前髪は少し長めで、その隙間から覗く気だるげだが芯のある切れ長の瞳。鼻も高くて髭も薄く、肌ツヤもいい。
「むふふ……カッコよかったなぁ、晴くん。めっちゃタイプ」
泉水は満面の笑みを浮かべながら、スマホを取り出し電話をかけた。
「あ、もしもしパパ?」
一定のコール音が途切れると、低く落ち着いた声が聞こえてくる。
『泉水か、どうした?』
「パパにちょっとお願いがあるの」
『それより今どこにいるんだ? なにかの事件に巻き込まれて警視庁に行ったってママから聞いたから、心配していたんだよ。パパもう泉水のことが心配で心配で』
優しげな声が泉水の耳に響く。
穏やかで柔らかい口調の電話の相手は、泉水の父親の白鳥
『仕事は大丈夫なのか? 個人営業だし、影響とか』
泉水は探偵事務所を経営しているということになっている。
「パパったら心配性だなぁ。全然大丈夫だから、安心して」
『周りになにか言われたら、すぐにパパに言うんだよ』
泉水は実家を出てかれこれ二年になる。
最初は家を出ることに反対されたが、今は渋々許容してくれている。既に成人しているにも関わらず、望は一人娘の泉水が心配でたまらないらしい。
住所を教えると毎日押しかけてきそうなので、所在は口が裂けても伝えないが。
「警察官ともちゃんとお話して解決したから心配しないでね。心配かけてごめんね、パパ」
もちろん泉水も、望に心配をかけないよう詐欺罪で警察に突き出されたとは言わない。というか、言えないというのが泉水の本音だが。もし事実を知ったが最後、望の心臓はショックで停止してしまうだろう。
そのため泉水は全力で嘘をつき、猫を被る。望の心臓と、自分自身のために。
『それなら良かった。安心したよ』
「それでね、私の事情聴取をしてくれた刑事さんがすごく優しくてね、お礼がしたいから連絡先知りたいの。なんとかならない?」
得意の猫撫で声で懇願する泉水。望はこの声にはめっぽう弱い。
案の定、
「警察なら少しは顔がきくから、調べてあげるよ。あとで名前を連絡しておくれ。まったく泉水は優しいなぁ」
よっしゃ、と泉水は心の中でほくそ笑む。
「じゃあ、分かる範囲でその人の情報全部ちょうだいね!」
泉水は軽い足取りで例の男・阿良々木タクトに購入させたマンションに帰るのだった。
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