第6話・大炎上
泉水は上機嫌に春の日暮れの帰り道を行く。
青々とした銀杏並木の歩道を歩いていると、けたたましいサイレンを鳴らして消防車が泉水の横を追い抜いていく。
「おや、火事かな」
泉水は通り過ぎていく何台もの消防車を気にも止めず、鼻歌を歌いながら考えを巡らせていた。
「帰ったら作戦会議っと」
泉水は取調室での晴の言葉を思い出す。
『こういうことはやめろよ。せっかく綺麗な顔してんだから』
思い出しただけでも顔がふやける。
こんな気持ちはいつぶりだろうか。
「パパ、早く連絡くれないかなぁ」
晴の白けた顔を思い出す。
「あれはあれでいいわぁ。あの顔でいろいろ細々文句言われたいー!」
なんて妄想をしながら歩いていると、どこからかふわりと香ばしい香りが泉水の鼻腔を抜けていく。
「なんか焦げ臭い? この火事もしかして、うちの方面だったりして。なーんて……」
目の前の光景に、泉水はあんぐりと口を開けた。
普段は世の男を写すそのガラス玉のような瞳には、業火に包まれる自宅マンションが映った。ついさっきまで窓であったであろう場所から、恐ろしさすら感じるほどの炎が轟々と火柱を上げ、黒煙を吹き上げている。
「おぉー盛大に燃えてらぁ」
業火に包まれるマンション。
「……あれ、うちのマンションじゃね?」
火災現場は泉水の住むマンションだった。
消防官たちがホースを持って、もっとホースを伸ばせだの、梯子を上げろだの叫んでいる。
「……ってか燃えてるの、私の部屋じゃね?」
泉水は燃え盛るマンションを見上げ、放心した。
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