第4話・実は……。


 俺と霙は自席で少し遅めの昼食を食べていた。

「それにしても美人でしたね、彼女」

「そうか?」

 男を小馬鹿にしたような、絶妙に腹の立つにやけ顔がよぎった。

「チッ」

 まあ、多少顔は整っていたかもしれないが。その言動の方がインパクトがあり過ぎて、正直うろ覚えだ。

「黒咲さんの目は節穴ですか? あれを美人と言わずしてなんと言うんです」

「お前こそバカなのか? 相手は犯罪者だ。そんな奴の顔にいいも悪いもあるか」

 ふと視線を感じて顔を上げると、霙にじっと見つめられていた。

「なんだよ」

「黒咲さんって、性欲あります?」

「真昼間からなにを言い出すんだ」

「彼女は?」

「いないが」

「でしょうね。これまでどんな人と付き合ってきたんですか?」

「……」

 そんな問いに俺が答えられるわけもない。つまり、そういうことだ。

 

「黒咲さん」

 霙がじっと俺を見る。

 面倒なことを聞かれそうな気配がムンムンする。俺は霙に視線を合わせないまま返事をする。

「なんだ」

「もしかしてとは思いますが、黒咲さんって童貞……」

「……」

「すみません、なんでもありません」

 

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