第6話 追いかけっこ?


なぜだ。なぜこうなった。


「グレナって、好きな男のタイプある?」


「少なくともシドニスみたいな美形には惹かれないかな。」


「えぇー。じゃあ嫌い?」


「嫌いってわけじゃないけど…」


「じゃあ、かっこいいって思ってる?」


「と、整ってるとは思うけど?」


「そっかー。それだけなのは残念。俺はグレナのこと可愛いと思ってるのに。」


最初は、こんな些細な確認?だった。なんでそんなこと聞きたがるのかよくわからなかったし、褒めるのかもわからなかった。とりあえず嬉しくないわけじゃないからありがとうとはいうけど。次の日は、髪がサラサラしてるの好きとか、目が好きとか、髪を耳にかける仕草が好きとか……

 それが数日続き、だんだんと褒められることに、気恥ずかしさが生まれていた。純粋に褒めてくれる人なんて居なかったから、本当に恥ずかしくてそわそわした。



 そして、今。私はシドニスから逃げていた


「グレナ!逃げないでよー。」


「捕まったらさっきのこと聞くでしょ?!」


「そりゃあ、そうだよ。」


「なら、嫌だ!」


 こうなった原因は数分前に遡る。生徒の質問に答え終わった後のことだ。


「グレナ、俺グレナが好きだよ。」


「は?」


 いくら放課後といえど、ほとんどの生徒は帰っていないんだが? みんな、え?って顔してますけど?? 聞き間違え説は?


「えっと?」


「グレナのこと、結婚したいぐらい好きって言ったの。」


「聞き間違いじゃなかったし、なんか増えてる…」


私が頭を抱えていると、シドニスが顔を覗き込んできた。上目遣いやめて。そんな、捨てられた子犬みたいな顔しないで!


「グレナは俺と結婚するのは嫌?」


 この質問ずるくねぇ?! 確かにシドニスはいい子だとは思うけど恋愛感情としては見てない。かと言って嫌と言うわけじゃないような…って、そこじゃない。シドニスは腐っても第五王子だ。王族との婚姻なんて家族ならみんな狙ってるし、シドニスは普通にイケメンだから女にモテる。

 どぉ答えても角立ちそー!なら、


「先手必勝!」


「え、ちょ、グレナ?!」


 答えないもん勝ちである。卑怯? なんとでもいえ! 私は今教師だぞ?! 答えにくい質問するシドニスが悪い!


「それでわたくしのところに来たのですね。さすが殿下ですわ。お姉様には弟属性が弱いって気づいて攻め方を変えるなんて。」


「そこじゃなーい!!」


私の話を面白おかしく聞きながらお茶を飲んでいるのは、妹のエレナだ。どうやらシドニスを焚き付けたらしい。


「残念ながら、この件についてはわたくしは殿下の味方ですの。」


「だと思った。小さい頃は私よりも強い人じゃないと認めないって言ってたのにね。」


「そんなの現実的ではありませんわ。世界最強の魔術師であるお姉様より強い人がいるわけがありません。それに、お姉様のことを幸せにしてくれるのなら、なんでもいいと思い直しましたの。」


「そっか。」


 理由はわからないけど、私が結婚する時の非現実的な条件が無くなったのなら、楽だろう。…いや、私結婚する気ないし。不老の人間と結婚する人なんていないでしょ。

 一瞬、シドニスの顔が浮かんだけど、ダメでしょ。あの子は生徒で王族で子供。今はいいとしても、大人になったら嫌になるでしょう。

 

こんなことを考えてる時点で絆されかけてるとは気づいていない。

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