第54話

 抑止庁ルーラーでは入庁試験があるのだが、それとは別に各部隊によって内容が異なる登用試験なるものがある。これは三等官として配属された人員が、本当にその部隊に適当な人物かどうかを試すためのものだ。

 例えば、広報部隊ではいかなる事態に遭遇しても笑顔を保てるかどうかを試される。強襲部隊では隊長あるいは副隊長と一対一の戦闘訓練が行われる。これらは通称、洗礼と呼ばれていて、これを通過して初めて正式な部隊員として認められる。


 諜報部隊では何をするかというと。


「一等官用の訓練を兼ねているとはいえ、三等官の扱いが悪いと評判だぞ」

「そりゃあそうでしょう。ここはそういう部隊ですし」

「やっていいことと悪いことの境界線があるという話だ」


 部隊長室こと、三等官の立ち入りが禁じられている待機室の一角。諜報部隊副隊長であるミロクは顔を顰めて隊長であるヘレシィにそう告げた。対してヘレシィはどこ吹く風、常のへらへらした笑いを崩しもしない。


「やっていいことと悪いこと? よくわかりませんね……」

「法で禁じられていること、これから法で禁じられるであろうことだな」

「これから法で禁じられるであろうことはちょっとこう、幅広過ぎてだめじゃないですか?」


 今度はミロクがどこ吹く風、しれっとした無表情のまま片眉を上げる。どうせこの抑止庁ルーラーなる組織は、己が法を司ることを逆手にとってやりたい放題なのだ。全く以て、困ったものであった。とはいえ、本題はそれではない。ミロクは話の流れを修正すべく口を開いた。


「三等官の扱いについて考え直した方が良い」

「考え直せと言われましても、ここで手控えして最終的に困るのは彼等なんですよ? 適性がないなら先に振り落としてあげた方が親切でさえある。そうは思いませんか?」

「振り落とし方にもやりようがあるということだ。遊撃に次いで離職率が高いんだぞ、反省しろ」

「まだ先輩が頑張っている内は良いのではないかなぁと」

「だめではないかなぁと」


 く、と僅かに首を傾げたミロクがヘレシィの声色を真似して返す。それに対してむっとした顔になったヘレシィが、蛇のようにミロクの真隣に移動する。そんなヘレシィを嫌そうに手で払い、ミロクは口を閉ざした。

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Re;Twri とりい とうか @gearfox

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