第51話
ニーナ=レンフィールドの配属に関しては人事会議において大いに荒れた。いつもなら諜報と遊撃が会議当日に話し合い(隠喩)を重ねるのだが、彼女に関しては会議前から様々な陰謀と策謀が張り巡らされていた。
それだけ、彼女の特性が。
尋問部隊長である「針鼠」カグヤ=クジョウは苛立たしさを隠しもせずに三等官の報告書を流し読んでいた。庁内の活動ではやはり諜報に一日の長がある。まぁ、元々粛正部隊などと呼ばれていたのだ。納得はできないが呑み下しはできる。
しかして、今回の人事会議では絶対に負ける訳にはいかないのだ。ただでさえ特殊な尋問部隊の特性、それにあれだけ合致した人員を、別に彼女でなくとも構わない諜報に獲られる訳には。できることなら人事会議の前日辺りに遊撃の隊長と喧嘩でもして全治一か月くらいの重傷を負ってほしいのだが、流石に心療の不可触物件に手を出す気はない。
そう、遊撃の隊長だ。あちらも要注意ではある。戦闘力が高い新人は何名かいたので、そちらに目を向けてくれているとは思うのだが。あの男はどうにも直感が鋭いようで、そう考えれば彼女を獲りに来る可能性が僅かながらあるのだ。あぁ、やはりどう考えてもどうしても尋問にほしい。
尋問は補助官が主体であり、実際の仕事も補助官で足るというか、うっかり相手を殺害しかねない戦闘官には向かないものなのだが、それでも戦闘官の不足は否めない。彼女ならば戦闘官として過不足なく仕事をしてくれるだろうし、何より彼女の手練手管は絶対に、諜報ではなく、尋問にこそ必要なものなのだ。
「隊長……やっぱ無理でした……」
「だろうね!! や、強襲のを懐柔できてるならそっちからどうにかはならないのかい?」
「そっちからいってこれですね」
合図も何もなく隊長室に滑り込んできた副隊長、異名を「親友」ケッヒェン=フライハイト。彼はぐしゃぐしゃに乱れ、点々と血で汚れた己の桃髪をくしゃくしゃと直そうとしている。が、半ばから折られてしまっている利き手ではどうにもならないようで、諦めてへらりと笑ってみせた。
「ウル君を通じて翻意させようとしたんですけど、オレが裏で何かしてたって気づかれたみたいで……何で気づけるのか意味がわかんなくてもう笑いしか出てこないですね。野生の獣でももっと鈍感なのに」
「あれは野生の人外だから……存外、本当に機人かもしれないとは思うけど」
「「殺人機」の異名は真正真実であると?」
「まぁ失敗したならそれはそれでいいよ。よくはないけど。取り敢えず手を治してもらっておいで」
「はぁい」
ぷらぷらと折れた手を振って、退室するケッヒェン。彼で駄目なら自分が動くしかないが、恐らく遊撃の隊長は警戒度を上げただろう。ならやはり外部から、どこに介入すれば誰がどう動くかを思案する。どうにかして、絶対に、どのような手段を取ってでも、あのニーナという女性がほしいのだ。あの、狐のような、蜘蛛のような、尋問にお誂え向きの特性を持つ、あの女を。
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