第50話
「もうニギはどうでもいいからオレらだけで作戦考えようぜ」
「本人の前でよくそんなことが言えるな」
「だってお前、訓練始まったら楽しくなっちゃって絶対に独断専行するじゃん」
「ぐうの音も出ないが」
「それなら黙っといて」
「ぐぬぬ」
そういうことになった。
宣言通りの独断専行である。遊撃部隊長の「殺人機」ことニギがその長い黒髪を靡かせて突出した。口頭、脳内、
「ゼーレヴァンデルングは毎年変わらないよね」
「すごく楽しくて楽しい」
抑止庁長官であるカノトは苦笑して大旗型演算機を振るう。その軌跡に沿って闇色の帯が生まれ、ニギの
「ゼーレヴァンデルングは願望権を望んでないから、協調性皆無で困ってしまう」
「お前に願って叶うことなどそんなにないし、今こうして戦えていることが強いて言えばそれだからな」
場面は一等官たちを対象とした戦闘訓練。長官であるカノトが相手であり、彼を唸らせることができれば、通常昇格時にしか与えられない願望権が与えられる。これは
「もーえろよもえろーよー!!」
刹那、強襲部隊長である「踊子」ウルの歌声が響き、炎の波が殺到する。ウルに憑いている
大旗型演算機、否、階差機関である
「今年は欲しいものがあるの」
「だからお手柔らかに願いたいわ」
そんな炎の乱舞の隙間を縫うように、左右からカノトへ迫るのは心療部隊長である「双剣」ベティ=エリーたち。特例として二人で一人として扱われている彼女たちは、一心二体の動きで双剣型演算機を振るった。
「欲しいものかい? 大体のものは買えるだろうに」
「許可がいるものなのよ」
「だから長官殿の購入許可が欲しいの」
「違法な物品の購入に関しては是と返しにくいな」
豪雨の如き双剣の連撃を大旗の石突きで器用に捌くカノト。のんびりとした会話を交わしつつも、並みの二等官では追えない速度で斬撃と打撃が飛び交う。そうして、競り負けたのは二人の方だった。
しかし、それもまた布石の一つ。猫のように、蛇のように、するりと二人の間を抜けてカノトを襲ったのは諜報部隊長の「化物」ヘレシィ。常ならば下ろしっぱなしの緑髪を綺麗に結い上げて、本日は近接戦闘向きの調整をしてきたらしい。
無言のまま、刃物を仕込んだ爪先でカノトの脚を蹴りつけようとするヘレシィ。カノトはそれを旗の布地で受け止める。様々な防御、妨害系の演算式が刻み込まれたそれは鉄よりも硬く、それでいて布としての性質を失ってはいない。カノトがくるりと手元を回す。ぼすん、と柔らかな音の直後にごつんと固い音。あいた、とヘレシィが額をわざとらしく押さえて後退した。
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