第49話

 振り向かずに叫べば、三等官たちが駆け出す気配。完全変異を終えたガネーシャが、そちらに意識を向けるのがわかった。目前のマオマオを、障害とさえ思っていない。ぐっと短い脚をたわめたガネーシャを見据えた、マオマオの炎が勢いを増し。


「ようやっとここまで来れた」


 ガネーシャとマオマオの中間地点に、それは落ちてきた。否、当人としては着地のつもりだったのだろう。地面を抉り、大穴を開けたそれを、着地と呼ぶのならばだが。ガネーシャが僅かに身動ぎ、警戒するように大きな耳を閃かせる。その、顔面に、一発。

 硬質な音がして弾き飛ばされたのは、ガネーシャの方。弾丸のように飛び出してガネーシャの顔面に一撃を加えたそれは、くるりと宙返りして今度こそ着地する。光沢を帯びた金属鎧を纏い、四肢を地につけて長い尾を振るう中身を見て、マオマオは絶句した。


「知っているかとは思うが、一応名乗ろうか。遊撃部隊長、「殺人機」のニギ=ゼーレヴァンデルング一等技官だ。何で技官かって、こんな好機に新入りの性能実験をしない訳にはいかんだろうと思っているからだ」


 最初は、終身刑を科された「教授」クルト=ガルディだと思った。かの男は幻想種である竜に変異するからだ。そう、思えるような姿だったのだ。その金属鎧は。


「ちなみに新入りの名前は竜士ラプトルキャプチャー君だ。どうにも気の合う人間がいなくて、しばらく俺の所に身を寄せることになった。蛇林檎アプフェルは非常に嫌がったが、しばらくの間ということで納得してもらっている」


 ナットクシテナイ……と金属質な声が響いたものの、ニギはそれを黙殺した。竜士ラプトルキャプチャーと呼ばれた機械精霊アドオンは装備型らしい。がちゃん、と音を立てて背中から巨大な翼を生やした。マオマオは硬直したまま、その変形を眺めている。


「流石に人間に対してこのままぶつかるとリッターみたいなことになるからな。いやぁ、大柄で丈夫そうな的がいて良かった。感謝している」


 ニギはマオマオの戸惑いや困惑を全て無視して、淡々とした声でそう述べる。吹き飛ばされた状態から復帰したガネーシャが、再度突進の構えを撮るよりも速く、ニギと竜士ラプトルキャプチャーが飛翔した。そうして、激突音。再度吹き飛ばされたガネーシャと、傷一つないニギ。マオマオは、石像のような顔をして変異を解いた。そうして、後から長官に密告するために諸々の記録を始めた。

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