第45話

「では反省の意を言語化して聞かせてくれる?」

「ウルが」「ニギが」「「悪い」」

「合唱するんじゃないよ」


 抑止庁ルーラーの第五棟、所謂、長官室と呼ばれる場所にて。拘束衣を着せられた上に拘束台にくくりつけられている二人は、それぞれ相手の方を顎で指して訴えた。


「何で合同訓練で加害者以外全員死亡とかになるのかな? ちょっとよくわからなくてね」

「ウルが俺の片目を盗んだから端的に言ってキレた」

「ニギが目をきらきらにしたのが圧倒的に悪い」

「は?」

「は?」

「まだ喧嘩する? これ以上は擬死刑に処すけど」

「生死を軽く扱いすぎでは? ササガネはもっと命の重さについて考えるべきだと思う」

「そうそう、長官は部下の命に対してもっとこう、労る気持ちとか? あった方がいいんじゃないかなって」

「どの口がほざく」


 合同訓練で、感情異彩症により金色に染まったニギの目を盗んで逃げようとしたウルと、そんなウルを殺すために訓練場全域に広範囲殺戮用の魔術を展開したニギ。

 無論、とんでもないことであったため、緊急通報を受けた各部隊員が出動したのだが、何せニギの魔術は厭らしい。溢れる水に触れた時点で周囲の重力に干渉され、無理矢理頭を押さえつけられて溺死させられる。

 灼焼牡牛ファラリス針剣乙女メイデン断頭台ギロチンに並ぶニギの混合系演算魔術ドットエグゼの一つ、魔女裁判ジャッジである(なおこれらの使用は普通に禁止されているし、ニギは普通にそれを無視している)。

 そうなれば後は、長官であるカノト=ササガネの御出座ししかない。固有魔術で全てをなかったことにしたカノトは、直属の部下であるザラマンディアにウルとニギを拘束させると、そのまま第五棟へ連れ帰り、今に至る。


「そもそも呼び捨てを許した覚えもないんだけど」

「ササガネと俺の仲だろう?」

「え、何それ、オレは仲間外れってこと?」

「そんなに深い仲だったかな……こっちの記憶が間違ってるような気になってくるね……」

「他の人間がいない場所でしか呼ばない程度の分別はついてる」

「オレのこといない扱いしないで? 陰湿ないじめは止めろ、泣くぞ、泣き喚くぞ」

「会話の手札が死球しかない感じかな?」


 てんでばらばらあちこちにとっ散らかり始めた話を元に戻すことを諦め、まぁどうせ最後には擬死刑にするからいいか……と黄昏た顔で斜め上を眺めるカノト。

 全く、愛すべき馬鹿どもはこれだから困る。なんて思いもしないことを脳裏に流したカノトは、ますます終わりが見えなくなってきた馬鹿どもの喚き声を止めるために、手元の懐中時計型演算機の竜頭を回した。

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