第42話

「ち~っす」

「ちわ~」

「っす~」


 強襲部隊長のウルが、珍しく諜報のヘレシィや遊撃のニギと違う人間と並んで風呂に入る光景を見た他部隊員たちは、いつもと同じようにそっと距離を取るなどした。というのも、残り二人もそこそこ厄場やばい人間だったので。


「やっぱ朝風呂って最高だわ……」

「ウル君は任務帰り?」

「違いますよ、フェア先輩は心療帰りです」

「もう親友じゃねぇからその呼び方止めろっての、ラルフェはツヴァイって呼べよ」


 片や桃髪碧目のノスタリア成人男性、尋問部隊副隊長のケッヒェン。馴れ馴れしく声をかけては素っ気なくされるのが常だが、一応、ウルとは知り合い以上友達未満、元親友(ケッヒェンがまだカッツェという名前だった頃、彼を抑止庁ルーラーに連れて帰ったのがウルだった)である。

 そして、その反対側にいるのが桃髪緑目のジェニアト成人男性、心療部隊所属の三等補助官、ラルフェ=ヴルム。偏執曲芸団パラノイア・サーカスの元「調教師」で、三等ながら「蛆虫」の異名持ち。ウルとは前職現職ともに、先輩後輩の関係だ。


「あれ? ウル君って週一じゃなかったっけ」

「この間また盗みを働いて週三にされてますね」

「いや他人の受診について平然と漏らすなよお前」

「だってボクと先輩の」「俺と親友の」「「仲でしょ?」」

「歌うな歌うな吠えるぞ、めっちゃ吠えるぞ」

「お風呂場で吠えたら大迷惑では?」

「ウル君は元々の声が大きいから」

「お前らが仲いいのやだわー……集合罪に問うぞ」

「そんなの言い出したら先輩が「殺人機」と組むのこそ大罪じゃないですか」

「友達同士で集まるのが罪になるのは解せねぇなぁ」

「じゃあ俺たちが集まるのも罪じゃないじゃん」

「お前らが集まるのは罪だよオレにとって」


 正しくは犯罪的行為を企図しそのために集合した者に対して問われる罪(この罪によって犯罪組織というものが認定されている)であるが、その会話を聞いていた他部隊員たちとしては異名持ちが三人以上集まったら概ね罪であると思っている。例外はあるが、概ねは。


「罪といえばフェア先輩」

「そんな話題転換ある? 罪といえばオレみたいな接続とその呼び方止めろ」

「この間の合同訓練中に「殺人機」の目を抉って大喧嘩した挙げ句二人とも懲罰房行きになって最終的に「錦蛇」に丸呑みされたって話」

「ウル君そんな面白いことしてたの!? 教えてくれないとそーゆー時は!!」

「その話は本当だけど面白くはねぇしオレが反省すべき点はうっかりニギの目を盗っちゃったことだけで後は全部ニギが悪い」

「「錦蛇」、噂だけは聞くんですけどほらボクって品行方正なので、実物を見たことはないんですよ」

「品行方正ってどういう意味だったっけ……」

「俺は訓練で一回会ったことあるけど、びっくりするくらい自我が強いって印象しかないなぁ。精神系全然通らないのおかしくない? 機人じゃあるまいし……」


 会話の方向性もまた狂ってきたため、大浴場から消えていく人影。三人はぐだぐだと駄弁り続け、それはラルフェが茹で上がるまで続けられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る