第32話
「凄惨な事件も無惨な事故も起こしてくれるな」
「えぇ……だってキャロル先輩が結婚とか解釈違いですよ?」
「お前の解釈違いで人命を儚くするの止めろ」
「先輩は特に解釈違わなくても儚くするのに?」
「楽しくなっちゃったら仕方ないだろ」
「じゃあボクも仕方ないですよ」
「仕方なくなってしまったな」
「なくなってないですよ馬鹿の集まりですか?」
「おや珍しいですねハヴィー」
「貴女にそこまで親しく呼びかける許可は出していません」
ニギとリコリスの馬鹿話を断ち切ったのは、緩く波打つ金髪、赤と翠の異彩眼を持つノスタリア女性、遊撃部隊所属の三等補助官であるマタミス=ハヴァチャクラ。つん、とした態度を崩さない彼女に、リコリスは軽く口笛を吹いた。
「いつも通りご機嫌斜めですねぇ。やだやだ、戦場において自分の機嫌を取れない人間はすぐに死んじゃうんですよ?」
「貴女の頭が少しでも正常になれば私もこうまでご機嫌斜めにならなくて済むんですけどね? 隊長は昨日提出期限の書類をどこにやったんですか?」
「知らん……何か知らん間にどっかいった……」
「そもそも年度末だから早めに提出してくださいってお願いしてましたよね? どっかいったって何ですか馬鹿なんですか?」
「ハヴィーのかわいい所は罵倒の語彙が少ない所。育ちがいいんでしょうねぇ、馬鹿としか言えないその脳味噌のつるっつる加減とか本当に可愛い」
「どうして貴女を罵るのに脳の容量を少しでも割かなければならないんですか? 悪感情を抱いているということを示したいだけなので必要以上に思考したくないだけです。それとも罵られることで快感を得る性的嗜好をお持ちで? 私は付き合いませんので別の人間に依頼してください」
「ハヴァチャクラの面白い所は秒で自己矛盾を起こす所。それこそうるさい馬鹿の一言で済むのにな」
「うるさい早く書類の場所を思い出せ馬鹿」
弾けるのは
「任務失敗になったらどうしてくれる」
「どうせバレても皆殺しにするんでしょう? 新年度早々に大量の始末書を代筆させられる副隊長が可哀想です」
「は? キャロル先輩はお前如きに可哀想とか思われるような存在ではないが? お前を陰惨な事故の巻き添えにしてやろうか」
「だから犯行予告止めろ、最終的に始末書を書くのは誰だと思っている」
「副隊長では?」
「キャロル先輩ですね」
「リコリスお前理解してるなら本当に止めてやれよ、嫌われるぞ?」
「キャロル先輩はこんなことでボクを嫌ったりしません!! これくらいで嫌われるなら最早ボクはゴミ扱いでは? うーん、キャロル先輩に罵られるのはそれはそれで……?」
「副隊長にご迷惑をかけるなって話なんですけど?」
そんな風にわいわいと騒いでいた三人に、近づく人影。
「おい、お前ら何をしに……って
「はいはいわおーん」
その男は、詐欺によって一般都市民から金銭を巻き上げている犯罪組織の一員だった。だったというのは他でもない。たった今、死亡時履歴抹消の対象者となり、前科が全てなかったことになったからだ。
ニギが発動させた
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