第31話

 抑止庁ルーラーの開発部隊はあまり、というよりほぼ表沙汰になることがない。それは、新兵器の開発という彼女の任務によるものであり、同時に彼女の異才を隠す目的でもあった。

 新兵器とは他でもない、海上周遊都市サイレンへの牽制或いは実力行使のために必要なものである。蒸気機関都市ザラマンド海上周遊都市サイレンは表向き友好都市としてあるが、水面下では常に互いを出し抜こうとしているからだ。


「いーやー!! やーだーやーだー!! 離せ!! この無知蒙昧浅学軽薄鳥頭!! ワタシの頭脳は少なく見積もっても貴様等の十七倍以上の価値があるんだぞ!!」

「絶対に拘束を解かないでねー、少なくともこの無差別破壊兵器を封印するまではー」

「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません……」

「ケッテちゃんは悪くないから気にしないでー」


 広報部隊の中でもとびきり背が高いノスタリア男性に吊り下げられているのは、紫髪金目のジェニアト女性。一つ括りにしていたその髪はぐねぐねと暴れ回った必然として乱れていて、かっちり着込んでいたはずの技官用白衣もまた脱げかけていて悲惨な状態だ。

 吊り下げられていても諦め悪く身を捩っている彼女こそ、開発部隊長の「厄災」シア=ジア。シアは元々個人で様々な武器を開発していたのだが、その内容が何らかの禁忌に触れたため(この場合の禁忌とは、神が禁じているとされる幾つかの条項を指す。その内容は明らかにされていないが、これに触れた場合、ほぼ確実に都市長が出るためそうと知れるのだ)、抑止庁ルーラーに所属させられているのだ。


「やーだーやーだー!! 絶対にこの子をお披露目するんだだって万霊祭で使ったのは壊されちゃったんだこの人でなし愚か者ワタシの子をどうするつもりだわーぎゃー止めろ止めろー!!」

「うるさくて申し訳ございません……黙らせた方がいいですか?」

「黙らせなくてもいいよー、疲れてぐったりしてる時にちょちょいのして撮影しちゃうからー」


 対して、心底申し訳なさそうな顔で謝罪を繰り返している金髪碧眼の機人はケッテという。喜怒哀楽フェイス製の個体名持ちである彼女は、シアの監視と管理のために生み出された。そのため普段はほぼ二十四時間シアに張りつき、この手の破壊兵器が生み出されるのを阻止しているのだがーー定期検診の隙を突かれてこの有り様だ。

 技官を募集する広告の素材集めに来たティルは、そうして嬉々として破壊兵器を出してきたシアを一目見るなり部下に拘束させ、にこにこしたまま長官への報告書を送信している次第であった。


「どうして!? 貴様等は本当に度し難い馬鹿だな!! ワタシの発明によってどれだけの人間が救われるか理解していないのだろう!?」

「死を救いと思い込むのは心療案件ではー? 反神主義者ク・リトルじゃあるまいしー」

「今すぐ黙らせます」

「ぎゃんっ」


 ごつ、と固い音。腹部装甲を突き抜けてシアの腹を揺さぶる衝撃。黙らせられたシアと黙らせたケッテの間に漂ういつもの空気。ティルは、撮影が押しちゃうな……と思いながら送信を終え、可愛らしく溜め息を漏らした。

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