第30話

 抑止庁ルーラーの広報部隊とは、その名の通り抑止庁ルーラーにおける広報活動を司る部隊である。隊長は桃髪緑目のジェニアト成人女性、「桃花」ティル=リード。つやつやな髪ときらきらな目、柔らかな鈴声、いたいけな言動、彼女を構成する全ては可愛らしさからできている。


「ただいまー!」

「おかえりなさいませ」

「おかえりなさい隊長、報告書の確認よろしくお願いします」

「わかったー」


 そんな彼女が率いる部隊員たちもまた、基本的には見目を重視して選ばれている。口さがない他部隊の人間は「はりぼて部隊」と揶揄するが、それこそが広報部隊の役割である。

 その、はりぼてを維持するためにどれだけの努力が必要か。一般都市民の多くが抑止庁ルーラーを正義の集団だと誤認しているのは誰のおかげか。ティルは待機室の奥、積み上がっている書類を見て首を傾げた。


「また新規案件ー?」

海上周遊都市サイレンから過剰に武力を集めようとしていると抗議があったそうで、求人広告を作り直せと……」

「あそこ文句ばかりじゃないー? それにしても真っ向から突っ込んできたのねー」

「実際はもっと遠回しに長々言ってきてたらしいですよ」

「あそこの大使館員は暇なのー? まぁ諜報が張りついてるから本来のお役目が果たせてないんだろうけどー」


 海上周遊都市サイレン大使館からの抗議文は「貴族」らしさに溢れた長文で、目が滑ったためごみ箱へ。長官からの要望書に目を通し、そういえば技官が少ないと言っていたような、と記憶を引っ張り出す。

 確かに装備部隊からも、技官候補がほしいと言われていた。今度は技官重視で作ってみるのもいいかもしれない。ティルは頭の中で大まかな企画を立て、机上端末を起動させる。


「技官って誰がいたっけー?」

「開発のジア隊長と、装備のガラキ隊長ですかね。二等と三等も列挙しますか?」

「遊撃のゼーレ隊長もでは?」

「え? あの人技官でしたっけ?」

「戦闘主体だけど技官でもあるんじゃなかった?」


 まぁそれにしたって頭のおかしい遊撃の隊員を広告に出すつもりは一切ないが。ティルはふんふんと唸りながら端末を操作し続ける。部下たちはその意を汲んで、ぱたぱたと忙しなく動き始めた。


「じゃあ技官から三人くらい選んでおいてー。装備部隊の設備を使いたいから調整お願いー。ガラキ隊長が難色を示したらアタシが話すからー」

「承知いたしました」

「隊長、他に押さえとくべき場所とかあります? 屋上か玄関?」

「んー、七生報国ナナツオの前で集合して撮りたいからー……玄関前を一時間かなー?」

「あ、だめかもです。長官の予定に地下無法都市ノームズへの出張が入ってる」

「じゃあ屋上でー。撮れたら玄関の方が映えるから、仮予約はしといてー」


 活気づく待機室、ティルの流れるような指示が飛ぶ。広報部隊、それは如何にも正義であるような顔をして、正義であるような言葉を連ね、正義であるとーー大義名分を積み上げる部隊であるが故に。

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