第27話

 機人の正式名称は、人型階差機関である。騎乗型階差機関こと乗機とは異なり、人間以外の姿は取らない。彼等には人間同等の知性と権利があり、人間の善き隣人として存在している。

 夜蝶とも称される、美麗な容姿と接客業への高い適性を持つ千紫万紅ミルフィオレ製の機人たち。各々の適性に応じた仕事を担うことで任務達成率九割を誇る大罪セブンス製の機人たち。故郷ともいえる製作所の気風により、彼等は様々な個性を有している。

 それらの中でも一際異彩を放つのは、喜怒哀楽フェイス製の機人たちである。まず、彼等には汎用機という概念がある。それは、これまでの機人たちからは考えられないものであった。何故ならば、機人とは個人であるからだ。そして何より、彼等は家族という概念を持っている。


「とはいえ汎用機も家族の一員だからな、粗末に扱えば殺しに行くぞ……ってのは父さんの言葉だけど、きちんと契約書にも書いてあったでしょ? 汎用機に無茶なこと言うのはどうなっても構わないって意思表示だと受け取るって」


 ひょいと肩を竦めた彼の、見た目は「殺人機」ーー抑止庁ルーラーの遊撃部隊長、ニギ=ゼーレヴァンデルングのものではあるが、その軽やかな声や笑みは、模した姿の正反対。

 喜怒哀楽フェイスが二番機、歌唱特化人型階差機関、個体名をガイスト。彼は製作者ちちであるニギの影武者として作られた機人である。


喜怒哀楽フェイスはお前を敵として認識した。それはそれとして愛娘たちを娼婦扱いしようとした報いは受けさせるがな。そういうことをさせたいなら、最初から千紫万紅ミルフィオレを迎えれば良かったんだ」


 そんなガイストが表情を消し、声を低くすれば寸分違わぬ「殺人機」の姿。実際、この言葉はガイストがニギから命じられた伝言だ。蒸気機関都市ザラマンド地下無法都市ノームズに連なる高級娼館の真似事をしようとしていた店主は、ガイストに向かって吠え立てる。


「に、人間擬きが人間様に逆らってんじゃねぇよ!! 何が家族だ、何が娘だ!! お前らなんてなぁ、所詮歯車の集まりでしかねぇんだよ!!」

「ふむ、それが遺言か? まぁ何をどう言い繕おうと目と玉は潰すし、両手は今後一切使い物にならなくするからよろしくな。あぁ、なるべく意識は保っていてくれ。そのように加減はするし」


 が、それは店主の苦痛を長引かせる理由にしかならない。横薙ぎ、拳の一撃で前歯を数本折られた店主は、ひぃひぃと悲鳴を上げて逃げ惑う。ガイストは、そんな店主を敢えて逃がしてやった。

 だって、その方がより苦痛と恐怖が長引くだろうから。それに、蒸気機関都市ザラマンドにおける普及率九割を誇る喜怒哀楽フェイスの汎用機たちの目から逃げ仰せるなど、不可能なことだから。

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