第25話
「ん? 出力不足か?」
「いいえ、接触時に防御系魔術の発動を感知しました」
「それでも挽肉にできるようにしたんだがなぁ」
のんびりとした声は、黒髪金目の男から。淡々とした音は、全身鎧姿のーー機人から。白衣を着込んでいる黒髪の男は、心底不思議そうに首を傾げてウルを眺めている。
「ってェ……何だぁ?
軽く頭を振り、ぐるると喉奥で唸るウル。気が弱い人間ならそれだけで失神しそうな殺意を真正面から浴びながらも、男は平然としていた。
「じゃあ次は魔術だな」
「マスターの命令を受諾……
横跳び、壁を蹴り床を蹴り回避。ウルが立っていた場所の先にあった壁は、大きく抉られ砕かれている。突き立っているのは巨大な馬上槍、少なくともこんな場所で使う武器ではない。
演算魔術によって加速されたその槍が、
「脅威度を上方修正……
ウルの着地点目掛けて放たれた魔術は小規模な乱気流。リッターと呼ばれていた機人は、最初にウルを轢いた凶器である大盾を構え直して突貫。予定外の風に脚を取られたウルを、もう一度跳ね飛ばす。上方修正とやらの結果か、先刻よりも更に速度を上げて衝突されたウルの、防御のために掲げた腕があらぬ方向へ曲がり折れた。
「いってェなクソが!!」
「うるさいな」
「喉を先に潰しますか?」
「いやいい、どうせすぐに静かになる」
「死ぬのはテメェだクソ野郎!!」
わん、と響いた
そもそも、機人に戦闘をさせていることから、男の戦闘力は低いと推察される。ならば、機人に指示を与えている男を先に殺せば、機人も無力化できる。そう考えたウルの思考は、概ね、一般的に、正しいものだ。
実際、
「何だ、俺と遊びたかったのか。いいぞ、遊ぼう」
「マスターの命令を受諾……待機状態に入ります」
ぱし、と軽い音と共に、ウルの脚が掴まれた。そのままぐるんと一回転、うつ伏せの状態で地面に叩きつけられたウルの肺腑から空気が抜ける。そのままずどんと背中に衝撃、どうやら男が自分の上に飛び乗って拘束しているらしいと知る。
「あァ!? テメェふっざけんなよぶっ殺す!! どけクソが!! ていうか重いな!? 何持ってんだテメェ!?」
「まぁそうだな、俺もこの制服は重たいと思っている。所持品としては……これくらいか」
「何……ェアッ!?」
ばつん、と重い音がした。白目を剥いたウルが、かふ、と吐息を漏らして気絶する。ウルからは見えなかったがーー男がウルに押しつけたのは、先端から高圧電流を放つ放電警棒。
「ん? あれ? おかしいな……推定値と実際の値が違うぞ。起きろ、まだ全然遊び足りな」
「捕らえろー!! どっちかっていうとサイトウの方!! 最優先!! お前突出するな勝手に動くなとあれだけ!! 言っているのにぎゃっ殺した!? 殺してるのか!? 始末書書くの誰だと思ってんだ!?」
「隊長が書くと思ってる」
「そうなんだよなー!! 私が書くんだよなー!! 監督不行き届きって私が一番嫌いな言葉!! 責任は個人に取らせるべきでは!? こんなのってないよ不幸だよ!!」
サイトウ、と呼んだ男の頭を平手でぶっ叩いたのは、フィニスにとって見慣れたーー否、
「隊長!! 「狼男」まだ死んでないです!! 死にそうだけど!!」
「絶対に生かして連れ帰れそれでちゃらにしてもらうんだ今回の失態!! あーもー何!? そもそもその子誰!? サイトウの所の機人の都外連れ出しの許可って下りてたっけ!?」
「将来的に外に出るんだから要らなくないか?」
「サイトウは黙っててもう何回か殴るよ!?」
「むぅ」
ノスタリアの一等官はべらべらと叫びながら他の隊員に指示を飛ばし、そこでフィニスと目が合った。ぱちくり、と可愛らしいまばたきが一度、二度。そうして、一等官はここまでで一番大きな悲鳴を上げた。
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