第12話
「ひどいめにあった……トキシックはこわい……」
傷口が繋がってさえいれば何とかなるからと、医療部隊の三等官のやらかしを黙っていたのだが(イーツの傷口を閉じ損ねた三等官も自身の失態を泣いて悔やんでいたのでまぁいいかと思ったのだ)、後悔とは後から悔やむから後悔というもので。
説教、説教、そして説教。
「しんでないからいいじゃないか……」
ぽそぽそと小さな声でトキシー(想像上の)に反論を試みるも、それこそ死を軽んずる姿勢に他ならない、傷一つというがその一つで致命の場合にも同じことを宣うのか、医療部隊に死を侮る人間を蔓延らせるつもりか、お前のそれは優しさではなく腐った甘さであり上に立つ者としての資質を疑う、などと言葉の散弾銃で撃ち抜かれて殺された(想像上で)。
「だいたい、しをかろんずるなって、あいつもむかしは……」
「あれ、大将がこんな所にいるの珍し……な、泣いてる……」
明るい声でイーツに呼びかけた青年は、ぎょっとして立ち止まる。懐から手巾を取り出しイーツの涙を拭ってやるも、ぽろぽろぽろぽろ、止まらない涙。青年は、困ったように己の緑髪を掻き回し、その金色の目を細めた。
「どったの大将、ひどいことされたの? オレが行ってきてごつんしてやろっか? 大将をいじめるヤツはどう考えても命知らずだとは思うけど……」
「トキシーにおこられた……」
「それは自業自得だな、解散」
「ふりだけでもなぐさめていけよ」
青年から手巾を奪い取り、ちーんと鼻をかむイーツ。
「そういうことするから!!」
「なんだとぅ」
「大将、火吹のと相性最悪だもん。これはオレの想像ですが、医療の三等を甘やかしたりしたんでしょ?」
「いつの間に闇属性の魔術を? 許可も同意もない精神系の行使は裁判沙汰だぞ」
「使ってないし。大将は前科とか自明の理とかって言葉は知ってる?」
はぁ、と肩を竦める青年ーー強襲部隊長、「踊子」ウル=フェアツヴァイフルング。ウルはそのまま扇を取り出し、開き、口許を隠して顔を歪めた。何せ、医療と給養の隊長の指導方針の違い、相性の悪さは折紙付きだったので。
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