第6話
「どうせ生き返るからって殺すのなくないっすかぁ!?」
「おかえりトルネくん、たいちょーの手を煩わせるなよ、ここでも殺されたい?」
「すんません!! ほんとすんません!! やです!! 殺さないで!!」
遊撃部隊待機室、ヒイナが圧をかけている相手はトルネである。くしゃくしゃの黒髪と、少しばかり垂れ気味の銀目。その端にぽつりとある泣き黒子が可愛いと、何も知らない女性職員からは人気なのだが。
「今日だけで六回は死んでる!! あ、でも久し振りにヘクセンさんに会えたのは幸運だったな……相変わらずつやっつやの髪にふわっふわの体……あの人絶対羊とか牛とかに変異すると思う……」
「殺さなくても苦痛を与える方法はいくつでもあるんだけど」
「はいっ!! 反省してますっ!! 殺さないで!! 殺さなくてもひどいことしないで!! ……ってあれ? 隊長は?」
「ジェファ隊長との密約を果たしにキャロルちゃんを探しに行ってる」
「うわ……後から姐さんに殺されるわ……」
「それはもう仕方ないかなって」
一気に青褪めたトルネは、あーうーと唸りながら身を揺する(何せ待機室に帰還するや否やヒイナによって椅子に縛りつけられたため)。トルネの直接の上官は二等戦闘官であるリコリスであるからだ。
「まぁ姐さんに殺されるならごほうびみたいなとこあるけど」
「反省、足りてない感じ?」
「いいえ!! 反省してますっ!! だからその赤錆びた金槌はしまいましょ? ね? ね?」
「脚の二本くらい潰しても許されると思うの」
「思いませんっ!! 止めて!! ひどいことしないで!!」
「ひどいことされるようなことしないで?」
「オレはしてなーい!! オレの行動をそういう風に評価する側こそ悪ーい!!」
「えいっ」
「ぎゃっ」
ごつ、とトルネの脛に一撃。骨が割れたか折れたか、重たい金槌で殴られてどう見ても駄目になってしまった脚の感覚に泣き出すトルネ。対してヒイナは、すんとした真顔でトルネを眺めていた。犯罪者の死体を眺める時と同じ目付きだ。
「責任転嫁は腹が立つ」
「隊長がしてる時は許されてるのに……?」
「たいちょーはいいの、お前は駄目」
「差別は許されざる行為では?」
「これは区別」
「うーん違いがわかんないな……ぎゃっ」
ごつ、と反対の脛にも一撃。再び悲鳴を響かせたトルネだが、ヒイナの目は変わらない。ヒイナにとっては隊長であるニギが一番、同隊同等の二等官たちが二番、自分の部下である三等官たちが三番。ニギの手を煩わせているトルネは下の下の下であった。
「回復していいすか……?」
「別にいいけど、反省が見られなかったらまた砕く」
「反省してますから……ほんとに……」
言い終わるなり、トルネの首筋に切れ目が生じる。はくはくと動くそれは鰓であり、輪廻魔術による変異の一つだ。こぽこぽと音を立てて宙を舞う水の珠は、水属性の小精霊が作ったもの。それはトルネの砕けた脛を覆い、癒していく。
「あいたたたたでもちょっときもちいいかも」
「本当に反省してる?」
「してますってほんとに」
へらへらと笑うトルネに誠実さは欠片もなく。ヒイナは疑わしさを隠しもせず、そんなトルネを見詰め続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます