第4話
「あ! たいちょーおかえり! リコちゃんは?」
「リコリスは尋問に呼ばれて尋問室だ」
「今回の爆破の件で?」
「まぁそれは正しいんだが、聞かれる方じゃなくて聞く方で」
「びっくりした、ついにそうなっちゃったかと」
「ついにって」
ニギが遊撃の待機室に入るなり、立ち上がってひらひらと赤い翼を振ったのは小柄な少女。人種として小柄なジェニアトである、橙髪赤目な彼女の名はヒイナ=フェオニクスという。
ヒイナは、体内の遺伝子を組み換えることにより様々な生物の姿へ変異する輪廻魔術の使い手だ。その中でも、幻想種と呼ばれている非実在生物への変異を得意としている。
「ついにじゃなくてとうとう?」
「確かに素行がいいかと言われると弱いが……」
「素行は皆そう、遊撃に素行が悪くない人っているの?」
「俺は悪くない……」
「自信がない顔……」
きゅ、と僅かに下がった眉と引き結ばれた唇。ヒイナはニギが困ったり弱ったりした時の表情にきゅんとくるため、今回もまたきゅんと胸を高鳴らせるなどしていた。
「俺たちがいない間に何かあったか?」
「シュガリちゃんが食堂で騒ぎを起こしたのと、トルネくんが一般都市民……うーん、まぁ一般都市民に訴えられたのと」
「トルネには何が起きたんだ?」
「えっとねぇ、サイレン出張の時に貴族のお嬢さんと恋に落ちて」
「あー……何となく理解した」
「そのお嬢さんがトルネくんを追いかけてきて、でもトルネくんってあぁでしょ?」
「あー……」
「騙された! 結婚詐欺だ! って……まぁ外交筋からの抗議じゃなかっただけよかったかなって」
「何も良くはないんだけどな、今はどうなってる?」
「訴訟の方? トルネくんの方?」
「トルネの方」
「えーと……」
手元に置いていた電子端末の画面を羽先でなぞり、ヒイナはゆっくりとまばたきした。
「交際届の出てる子はいないんだけど」
「だけど」
「三人と同時にお付き合いしてる」
「誰かあいつをどうにかしてくれ」
「していいならするけど……」
「ヒイナとリコリス以外で」
「ふくたいちょーに頼む?」
「うーん……」
それはそれで悩みの種が増えそうなのでぎゅっと目を閉じるニギ。その表情もまたかわいらしいとにこにこしているヒイナ。
「あいつ常に何人かと付き合ってないと死ぬとかあるか?」
「ないと思うけど、幸福ではなくなっちゃうかなと」
「うーん……困る……取り敢えずその貴族はどうするか……」
「ここで話は戻るんだけど」
「あっ嫌な予感がする、シュガリか? シュガリなのか?」
「えへへ、そうでーす。シュガリちゃんがきゃーきゃー騒いでたその貴族のお嬢さんを、こう、ね」
「止めろその手つきシュガリはあれか今懲罰房か?」
「そうでーす」
「あー……指導不行き届きで始末書……」
「書くのはキャロルちゃんだけど」
「まぁそれはそう、でも口述筆記だから考えるのは俺」
「今時直筆じゃなきゃだめとかよくないと思う」
「それは本当にそう、どこに訴えたら勝てる?」
「倫理委員会では?」
「敗訴が確定してしまったな……」
遠くを見るような目をして天井を見詰めるニギ。待機室に備え付けられている電話機が着信を告げ、その目線は更に淀んでしまった。ヒイナはきゅんとした。
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