第3話

 聴取室から出てきたニギとリコリスは、肩を回したり背筋を伸ばしたり、如何にも疲れましたと言わんばかりの態度で廊下を進む。二人とも抑止庁ルーラーの第四棟にはよく呼ばれるものの、好んで滞在したいとは思っていない。


「あ、丁度良かった」

「この間フィニスを八つ裂きにした件の禊は終わったが?」

「今回の件については後日反省文を提出しますが?」

「懲罰房行きは禊じゃないし、今回の件だけど反省とかそういうのじゃなくて……」


 そんな二人の前方、第三棟に続く渡り廊下から現れたのは黒髪藍目の青年。白い制服は補助官であることを、腕章に刺繍された満月と天女の隊章はーー尋問部隊所属であることを示している。

 彼の名前はカグヤ=クジョウ。尖り耳と白い肌色が特徴であるノスタリアであり(ニギとリコリスは丸い耳と黄色を帯びた肌が特徴のバリアルタだ)、尋問部隊の隊長だ。その証は、隊章を囲う金の歯車。


「オクト二等戦闘官を借りてってもいいかい?」

「俺は構わんが、リコリスが何て言うかな……」

「ボクは隊長の許可があれば構いませんよ」

「いやそこは拒否しろよ」

「冗談半分で他隊の要請を拒否しないで」


 数回のやり取りで一気に疲労感の漂う表情になったカグヤは、大きく溜め息をついて人差し指を立てた。


「君らが捕まえたあの指名手配犯なんだけども」

「あれ? きちんと殺したはずなのに捕縛扱いですか?」

「心臓爆破されて生きてたら大天災ジーニアスの所業だろ」

「死亡する前に!! 第四棟に!! 運ばれたので!! 捕縛と相成った訳だけども!!」

「あぁ、そういうことにすると」

「履歴抹消を免れてしまったのか、可哀想に」

「思ってもないことを言うのは罪だよ!! まぁ兎に角、死ぬ前に第四棟にいたから改めて尋問するんだけど、オクト二等戦闘官がいた方が気持ち良く歌ってくれるんじゃないと思って」

「え? また爆破してもいいんです?」

「またばらばらにされるのか、可哀想に」

「思っても!! ないことを!! 言うんじゃない!! 書類の改竄もそうだけど目撃者の追跡やら情報の統制やらで諜報が怒髪天だよ気を付けなね」

「委員長が怒髪天は相当ですよ」

「今度こそ倫理違反で処されるな」


 やれやれと言わんばかりの態度だが、ニギもリコリスもやれやれなんて言える立場では全くない。カグヤが頭を抱えて苦しんでいる様を笑っているリコリスの方は特に。


「遊撃部隊は訳あり部隊だけど、訳を作り上げていい訳じゃないんだよ……?」

「問題児ばかりな地獄の小学校と呼ばれたことがあるな」

「狂人だらけの狂態博覧会ではなくて?」

「どっちも誇るべき異名ではないからね!?」

「で、どの尋問室でやってるんですか? フロー二等補助官のお説教で疲れたから秒で歌わせてやりますよ」

「体のどの部分も欠損させないでね!?」

「保証はできませんが」

「正直は美徳だな」

「狂態博覧会!!」


 思わずニギの頭を叩こうとしてしまったカグヤは、一瞬でその腕を掴まれて曲がらない方向へと曲げられそうになる。ぎゃんぎゃん喚くカグヤと笑っているリコリスと、躊躇なくカグヤの腕を折ろうとしているニギとーー誰がどう見ても悲惨な治安の悪さであった。

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