第2話

「ニギ=ゼーレヴァンデルング一等戦闘官、リコリス=オクト二等戦闘官。何故、聴取室に呼ばれたか、解っていますか?」

「何故って十回繰り返すと発狂するらしいぞ」

「何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故……どうです?」

「お前は基から狂ってる人間だからな、どうも何も」

「聞いてます!? 聞いてませんね!?」


 不吉の擬人化と名高い、黒尽くめの男ことニギは、隣に座っている赤目の少女、リコリスと顔を見合わせた。お互い僅かに首を傾げ、同時に肩を竦める。

 そんな二人の対面でぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返している尖り耳の女は、抑止庁ルーラー初動部隊副隊長、フィニス=センパフローレンス。鮮やかな赤髪をがしがしと掻き乱し、深緑の眼を三角に吊り上げて怒りを示しているも、肝心の二人には何の効果もない。


「一般都市民への避難勧告をしなかったことか? 悪かったと思っている、誠に遺憾というやつだな」

「死体を放置してたことじゃないですか? でもすぐに清掃部隊の方々が来ると思ったんですよ」

「どちらも正しいけど間違ってます!! 何故一般都市民がいる中で人体爆破なんて手段を取ったんですか!?」

「二回目だぞ、十回目にはどんな狂態を見せればいい?」

「第四棟なんでフロー二等補助官をどうにかしちゃいます?」

「本人を目の前にしてとんでもない計画を立てないでくれません!? 訴えたら勝てますよ!?」

「まぁそれはそう、とてもそう」

「でも裁判員を全員どうにかしたら」

「馬鹿の極み遊撃!! 殺人部隊の狂人ども!!」


 歌唱魔術の使い手であるフィニスが本気で大声を出すと、それだけで痛打となる。鼓膜がどうにかなってしまいそうな音圧を真正面から受けた二人は、反射的に防御系演算魔術ドットディフェンスを発動させて己の身を守った。

 何故このようなことになっているのかといえば、指名手配犯だった女を爆死させた二人は、都市内を巡回していた初動部隊員に連行されたのだ。犯罪者を捕縛する際はある程度の暴力が容認されるとはいえ、殺人までは許されていない。順当な理由であった。

 そうして、二人の調書を取るために聴取室にやって来たのが初動部隊副隊長のフィニスだったのだが、フィニスはニギとリコリスに対して殺意に近い憎悪を抱いているため諸々難航している(なお、ニギはフィニスのことを所謂おもしれー女と思っているので彼なりに可愛がっているのだが、突っ掛かられたら躊躇なく返り討ちにしている)。


「殺害予告は罪!! 擬死刑にされろ!!」

「擬死刑にされろというのは殺害予告とほぼ同義では?」

「しっ、フィニスは神経が苛つく病気だから優しくしてやらないといけないんだ」

「聞こえてるぞゼーレ!! 病気な訳あるか!! 名誉毀損で倫理委員会にかけてやる!!」

「委員長が先輩と泥沼の関係ってのは教えてあげないんですか?」

「この間意見の相違で喧嘩したから処される可能性がある」


 きぃいぃい、と金属を擦り合わせたような絶叫を捻り出すフィニスを横目に、ニギとリコリスは反省の欠片もなく駄弁り続けている。それは、抑止庁ルーラー内では割と日常の風景であった。

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