Re;Twri
とりい とうか
第1話
規則は破るためにあるなんて嘯く舌は、無惨に切り落とされて徹底的に焼き尽くされる都市。
「もう春か? 夏か?」
「まだ冬なんですよねぇ」
「嘘だろ……」
黒く澱んだ目に、黒くぱさついた長髪。その上、
対して、赤く円らな目に、黒く癖のある短髪。戦闘官の制服は男よりも小柄で、袖回りもすっきりしている。そんな少女はぱちぱちとまばたきを繰り返し、へらっと笑った。
「連日最低気温が二十度以上ですからねぇ」
「せめて春であってくれ」
「どれだけ願おうと冬なんですよねぇ」
「神は死んだ……」
「その手の冗談は止めろって叔父貴に言われてませんでした?」
眉を跳ね上げて咎めるような口調。少女は男と向き合う位置に立ち、人差し指を突きつける。男は僅かばかり顔をしかめて、大きな袖口から指を出す。
「この気温なら冷房入れても良いだろ?」
「ただでさえ制服で目立ってるのに?」
「俺が出てる時点で目立たずにってのは無理だろうがよ」
「ボクに向かって怒らないでくださいよ、冤罪にも程がある」
「冤罪というか八つ当たりだな」
「理不尽だなぁ」
男の指には、黒鉄色の指輪が複数個。親指の腹で叩く、押さえる、爪先で弾く。きん、と高く冷えた音が響き、男と少女の足下に霜が下りた。
「そもそも暑いのは嫌いなんだ」
「知ってますよ、でもザラマンドから出られないんでしょう?」
「サイレンは気温的に良いんだが、都市長が糞」
「外交的にまずい発言も止めろって言われてませんでした?」
「個人の意見だ、諸説ある」
「諸説って」
けらりと笑った少女に向けて、微かに口角を上げた男。二人は冷えた空気を尾に引きながら、都市内の法律違反者を探して回る。
「殺すなよ、履歴抹消になったら反省文だ」
「努力目標ですね」
刹那、男の指が素早く蠢き、道路が凍てつき、標的の足を縫い止める。蛇のように標的の女の太股まで這い上がった氷塊は、
「
「わん」
「先輩その煽り方好きですよね」
「好きというか面倒臭くて」
女はまだ凍りついていなかった左手で注射器を取り出し、自身の首へと打ち込む。ぼこぼことその筋肉が、骨が、変質していく。
「ボクの方が無害だと思われてて嬉しいですねぇ」
「有害極まってるのにな」
だがしかし、女の右目、喉笛、胸元、前足と後ろ足に一本ずつ突き立った小刀。それらは次々と爆発し、女の目を、喉を、心臓を、四肢を引き千切っていく。
「あっ殺すなよって言ったのに!!」
「今気づいても遅くないですか?」
「いつものこと過ぎて……」
「まぁボクを無害だと思う程度の小物でしょうから」
「反省文はお前が書けよ、俺は止めたんだからな」
「その言い訳が副隊長に通じるかどうかですねぇ」
「うーん、隊長権限とかないか?」
「あったらもっと自由にやれてると思いません?」
「まぁそれはそう、とてもそう」
突如起きた惨劇に、周囲の一般都市民たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った後で。男と少女は、飛び散った血と肉片を前にして、大袈裟に肩を竦めて溜め息を漏らした。
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