古本屋店主の苦悩

天昌寺 晶

時代の流れに乗って

 21世紀となり、元々は小さな町だったここは、今ではすっかり昔の面影を残さず、都市として栄えている。

 そんな都市のど真ん中に、静かに溶け込んでいる一軒の古本屋がある。

 その古本屋は、戦後まもない頃に、本収集が趣味だった当時67歳の私の祖父が、少しでもお金が得れればと思い開店した。

 初めは、戦後まもない頃であったが為に、町の人々は生活を営んでいくことで必死だった。

 そのためか、開店から2、3年は客足は乏しいままだったらしい。

 ところが、ある日を境に、少しずつだが確実に、来店客の数は増えていったらしい。

 この事については、祖父もなぜ客が増えていったのか、見当もつかなかったそうだ。

 そして、客が増え、安定した売り上げを上げる事が出来、満足した祖父は父に店を継がせた。

 父の代では、高度経済成長期と重なったりと、経済的に潤った時代であった為か、お金を落としていく客が、祖父の頃の倍にも跳ね上がり、店は繁盛した。

 21世紀に時代が移り変わった頃だった。

 店の売り上げが下がりかけており、父も高齢となった為、当時高校を中退して職を探していた私が店を受け継いだ。

 それから20年近く経った今でも私は店主として居座っている。


-某日-


 いつものように、午前9時に店の中央扉のシャッターを上げて開店した。

 しかし、今日の朝はいつもより忙しくなる。

 何故なら、今まで「支払い現金のみ」と「本に値札を貼る」というシステムだったのを、会計の円滑化を計る為、最新のレジやら管理システム、支払いの電子化へと変えようとしていた。

 開店してから準備をする理由としては、特にこれといったものが無いが、あるとすれば、訪れる客が少ない為であろう。


 準備が終わった頃に、父の代からの常連のお爺さんがやってきた。


「いらっしゃい」


 私がそうお爺さんに言うと、お爺さんはこちらを見て少し驚いた。


「最近のレジを買ったのかい?」


 お爺さんは、設置したてのレジを見てそう言ってきた。


「そうなんですよ。来てくれるお客さんが少ないとはいえ、会計をスムーズにしようと思って、買っちゃったんですよね〜。」


 私がそう答えると、お爺さんが残念そうな顔をした。


「?...どうしたんですか?」


 何故か、残念そうな顔をしたお爺さんに私は聞いた。


「いや...、昔からの会計の仕方をしているこの店が、今の時代となっては懐かしく好きだったからねぇ。」


 新しいシステムを導入して、ほやほやしていた私に、なぜかお爺さんの言葉が深く刺さった。


「まぁ、私の言葉は気にしないでおくれよ...。」


 お爺さんはそう言って、新しく仕入れた本の棚へと向かった。

 

「......」

 

 お爺さんの言葉を聞いて、私は何とも言えない感情に襲われていた。

 しかし、確実だったのは後悔の念が強かったことだった。

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古本屋店主の苦悩 天昌寺 晶 @tensyouziakira

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