怪しすぎる隣の本屋さん。

カワキ

第1話 家の隣に怪しい本屋さんができた話

 春、冬の寒さが過ぎ去った暖かなある日。家の隣に、突然本屋ができた。


「あれ……いつの間に……」


 元々空き地のように扱われていた場所だっただけに、本屋ができることは喜ばしかったのが、朝、高校へ向かおうとして家を出ると突然ソコにあったのだ。


「でも……工事してたっけ?」


 そんな様子はなかったのだが、今みると、小さなこじんまりとした本屋ができており、不思議に思う。


冬悟とうごー!ごめん!待った?」


 と、そんな考え事をしていると後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえ


「ん?あぁ……今出たとこだよ。そんなに慌てなくてもいいのに鮮花せんか。」


 振り向くと、そこには走って来たのか、両膝に手を置いて息切れしている幼馴染の姿があった。


「いやいや、絶対待ったでしょ!だっていつもより十分近く遅く起きちゃったもん!」


 顔を上げ、少し顔を赤くしてそういう彼女に事実を伝える。


「本当だよ。だって俺も寝坊したもん。」

「うわ、悪いヤツだ!」


 いつもと変わらない日常だ。


「で?冬悟は何をみてたの?」

「あぁ、これみてくれよ。こんなところに本屋さんができててさ。」


 本屋の方を指さし、鮮花に家の隣に突如できた本屋を紹介する。


「本当だ……あれ?空き地だったよね?」

「そうなんだよ。驚いた……いつの間にかできてたんだ。」


 どうやら自分だけじゃなく、他の人も知らなかったということで、ますます不思議な気持ちになる。


「入ってみようよ!少しぐらいなら遅刻しないだろうし!」

「あっ、おい!」


 呼び止める間もなく鮮花は本屋へ近づいていき、扉を開けようとする。

 だが、扉に手が差し掛かったところで鮮花の手が止まり


「ねえ!みて!冬悟!ここ!!凄く面白いよこの本屋さん!」


 振り向く彼女は扉の取っ手のところを指さしそう言ってくる。


「鮮花、よくそんなガツガツいけるなぁ。普通少しは怪しむだろ。」

「本屋さんだよ?大丈夫でしょ!いいからいいから!ほら!みてみて!」


 そう言われ、本屋の近くに行き、取っ手の部分を見る。


「ん?何か書いてある……」


 取っ手の握るところに、凄く小さな文字が書かれており、目を凝らしてみると


 開店日 未定。 営業時間 深夜一時~三時の間のみ。


 と、書かれており


「いや!!怪しいだろ!!絶対大丈夫じゃないよこの本屋さん!どこに深夜営業の本屋があんだよ!」


 付き合いの長い幼馴染だが、今回は言わせてもらおう。何をどう見て、この本屋さんを大丈夫だと思ったのか全くもって理解できない。


「逆だよ冬悟!これはきっと逆転の発想なんだよ!あれ?……逆転?何言ってんだろ私。」


 訳の分からないことを言い始めた幼馴染に呆れ


「はぁ……馬鹿らしい。行くぞもう。」


 結局何だったのかと気にはなるが、これ以上は遅刻になってしまうため、高校に向かうことにした。


「えー!じゃあさじゃあさ!今日の夜中、行ってみようよ!」

「やだよ。胡散臭いだろう。開店日未定とか営業時間とかから考えて、客を呼び込む気がねえんだよ。ここは。そういう場所なんだろきっと。」


 だが、鮮花は俺よりもっと気になっていたらしく、行き道はずっとあの本屋に行ってみたいという話題ばかりで


「本当に?本当の本当に気になってない?行ってみたいとか……思っちゃってない?」


 自分が行きたいだけだろうに、ずっとこんな感じのことを行ってくるため、仕方なく。本当に仕方なくだが


「……あー、もう分かったよ。一回だけだからな。今日の夜、二十四時五十分ぐらいに俺の家の前集合な。」

「おっ!さっすが冬悟ー!分かってんね!んじゃそういうことで!」

「開いてなかったら速攻帰るからな。」

「楽しみだなあ。」


 こうして俺達は、突如できた怪しい本屋さんに突撃することが決まった。


 ****


 深夜、約束通り家の前で待ってると


「冬悟ー!来たよぉ!」


 控えめな声で幼馴染である鮮花が、走ってやってきた。


「ふふーん。どうよ、二十四時五十七分!」

「夜でも遅刻してくるってお前はいつの時間帯なら大丈夫なんだ。」

「あっ、やっぱり誤魔化せない?ごめんなさい!」

「ま、家の前で待ってるだけだったし別にいいけど。それに、あと三分後には解散だろ?」


 そう、どの道あの怪しい本屋が開かなかったらその時点でなにもなく解散なのだ。


「えっ?でも明かりついたよ?」

「はっ?!」


 と、そんな事を考えていたまさにその瞬間に、隣の本屋に明かりがついた。ついてしまった。


「嘘だろ……まじでこの時間帯からやってんのかよ。」

「面白そー!早速行ってみよ?」


 勘弁してくれと思う俺と、大はしゃぎの鮮花。約束なので、ついて行くしかない。


「ごめんくださーい。」


 なんの躊躇いもなく扉を開け、店に入る鮮花。それについていくように後から入る。


「いらっしゃい。よー、この時間帯に来たもんじゃ。ゆっくりしていき。」


 入ったと同時に、そんな言葉をかけられる。

 中に入ると、そこはとても狭く、個室のような空間となっていた。奥に、机と椅子。両脇に本棚と、少し古い感じを漂わせてるそんな空間だった。


「あー、ゆっくりはさせちゃダメか。かかかっ。まぁ程よく、くつろいでいけや。」


 そう言って、ただ一つある椅子に腰かけているのは、灰色の袴を着たおじいさんだった。


「おじいさん一人でやってるの?」


 鮮花がそう聞くと、おじいさんは気怠そうに


「見ての通り、こんな狭い場所だと一人の方がええんじゃ。」


 そう言ったおじいさんは立ち上がると、左の本棚から二冊、手に取ると


「これとか、オススメじゃ。」


 鮮花に一冊、その後自分にも一冊を渡してくる。


「ねえみて!冬悟!がしゃどくろとろくろ首の熱愛記だって!」

「とんでもねぇ本だな。」


 もっといいものがあっただろうと思うも


「俺のは……」


 恐怖!!妖狐のスベリまくる話!!百選!!


 表紙にはそう書かれていた。


「ひでぇ……」


 とはいえ、絶妙に気になるタイトルなのが少し憎い。


「えー!冬悟のやつも面白そう!読み終わったら替えっこしようよ!おじいさん!これいくら?」

「はぁ?!買うつもりか?!俺はそんなつもりないぞ!」

「いいじゃん!記念にだよ!記念に!」

「記念って……なんのだよ……」


 こう言い始めるともう止まらないので、仕方なく。


「これ……いくらですか?」

「やったぁ!!」


 隣で喜ぶ鮮花をみて、一体この本のどこにそこまでの魅力を感じたのか疑問に思うが、本屋に付きあう約束なので仕方なくだ。本当は少し気になっているからとかではなく仕方なく。


「あぁ、二十円じゃ。」

「いや!やっす!!」


 想像以上の安値で驚かされる。


「すごーーい!得した気分!」

「いや、安すぎだろ……よくやっていけてますねこの値段で……」

「そりゃあ……のらりくらりよ。」


 突然現れたこともそうだが、あまりに値段が安すぎる。この未定の営業日に、この営業時間に、この安さ。あまりに胡散臭い。


「お前さん、胡散臭いと思ったじゃろ?」


 と、こちらの心を見透かしたかのようにおじいさんにそう言われ


「いや、思うでしょ……怪しすぎませんか?」

「ちょ、失礼だよ冬悟!」


 そこでおじいさんは何故か笑みを浮かべ


「ええんじゃええんじゃ。そりゃ当然の反応よ。今までやってきた場所でも言われたことじゃ。」


 そう言うと、おじいさんは続けて


「まぁどう思うかはお前さんら次第よ。捉え方は本と同じで、各々に任す。」


 そう言っておじいさんは愉快そうに笑う。そして信じられないことに


「しばらく……ここに、この時間帯におる。時間が空いたら、たまーーに立ち寄ってくれや。」


 そう言うと、おじいさんの姿がどんどんと薄くなっていく。


「あぁ、それと初のお客様のお嬢ちゃんと坊主に最後にアピールというものをしとこうかのう。この本屋、全てがノンフィクションじゃけ。面白いからきっと気にいるぞい。」

「えっ?」

「は……?」


 そしてそう言い残し、本屋と共に姿を消す。気づいたら、自分達は手に本を持ち、空き地の中央に立っており


「ねえ冬悟……これって……もしかして、そういうこと?」

「言うな。何も言うな。俺は何も見ていない。」

「やばぁ!初めて会っちゃった!多分、そういうことだよね!今の!」

「だから……俺は怪しいと言ったんだ……」


 こうして、俺の家の隣に新しい本屋ができたのだが、とにかく怪しい。





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