Episode6 翻訳者

狸の元へ近づき、茂みに隠れて様子を伺う。

狸は、スライムに覆われていた。


「!!!」

口から泡を吹いている。スライムに身体を圧迫されているようだ。


どうしよう・・・今度は本当に殺されるかもしれない。

こえー、こえーよ!

俺はどこにでもある普通の古本屋の息子だったのに・・・。

不良ばっかの高校で、清く正しく学生生活を送り、大学もそこそこの所に受かって、ごくごく普通に生きていたと思う。

それなのに、何故こんな目に遭うんだ・・・。

運が悪かった? そうだよな、昔から運は悪い。不良の高校だったから、友達はいなかったし、家の事で忙しくて大学も講義を受けるだけの場所だった。

古本屋の息子に生まれた事自体、運が悪い。でも仕方がないよな、ってずっと受け入れてきた。そうだ、仕方ないよ。悩んだって、恐れたって、仕方ないんだ!


立ち上がり、両手をあげて狸のそばまで歩いて行った。

「俺はここにいる、そいつを離してやってくれ!」


爺さん達は一斉に俺の方を見た。狸は白目を向いている。

「そいつを離してやってくれ!」

俺は狸を指差し、ジェスチャーで狸を降ろす動作をやってみせた。

こんなんで伝わるかわかんねーけど・・・。



爺さんの一人が俺に話しかけてきた。いや、だからお前らの言葉わかんねーんだって。俺はジェスチャーを続け・・・。

「そんな動作をせずとも聞こえております」


あれ? 今なんて?


「今、俺に喋った?」

「そうです、あなたに話しかけました。翻訳者様」

「!!!」


爺さん達の言葉がわかる! わかる! なんでだ?

あれ、しかも今、翻訳者様とか言った? なんだそれ? なんか敬われてるし。

まさかの味方?


爺さん達は狸を降ろし、指差した。

「これが何なのかお分かりなのですか?」

「へ?」

「先ほど、これは翻訳者様の姿をしていました。大変高度な魔法です。そんな魔法を使えるモンスターを我々は地下牢に入れていたとは・・・。何と恐ろしい・・・」

「いや、ただの、化け狸でしょ。見たのは初めてだけど、しかもそんな恐ろしいって感じじゃな・・・」

「化け狸! 個体名がわかるのですね! さすが翻訳者様!」


だから、翻訳者って何なんだ! さっぱりだ! 


狸がヒクヒクと痙攣し始めた。ちょっとまずいな。

「狸を治療したいんだけど、どこか部屋とかないかな」

「まさか助けるのですか! 先ほどのご配慮、まさかこのモンスターを服従しているのですか?」

「え・・・いや・・・服従って程じゃ、んーと、仲間?」

爺さん達がざわめいた。



「分かりました。ご案内致します」










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