Episode5 囮作戦

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

確か、空いている小屋は地下牢の入り口近くにあったはず。

そこまで走り切れば・・・。


小屋の住人達が俺を物珍しそうに見てくる。皆呆けていて、虚な目。


可哀想に・・・、ここで暮らしてそうなってしまったのか・・・。

俺は、ああなりたくない!


走り続けた。もう30秒経っただろうか。

しかし、俺こんな走れたか? 高校生の時、短距離走も、マラソン大会も順位は下のだったんだが・・・。

さっきも扉を抑えていて思ったけど、疲れを感じない。

今も、走ってて息切れしないし、永遠にどこまでも走っていけられそうな・・・。



空き小屋へ到着した。小屋の中に入り、見渡す。

木で建てられた簡易的なその小屋の中は、汚い桶や布切れ、藁のベット、欠けた食器や巣が貼られた釜戸。


—————環境最悪。こんな所、一分でもいたくない。


一番エグいのは、臭そうな肥溜め。思わず、鼻を覆いたくなる。

でも、俺は鼻を覆う必要がなかった。

ここでようやく身体の違和感を理解した。


「臭くない・・・」


おかしい! 絶対おかしい! こんなエグい見た目の糞が臭くないわけがないだろ!


肥溜めに鼻を近づけてみても、まるで匂いを感じない。

まるで嗅覚を奪われたようなそんな感覚。



ダダダ、ダダ、ダダダダ。

バーン!

遠くから、轟音が響く。


「30秒経ったのか・・・。いや、、、え? 今で30秒?」

おかしくないか? だってここの小屋まで500メートルくらいはあったはずだ!


俺の身体、超人になっちゃった?

もしかして、もしかして、さっきの小屋住人も俺って視認してないんじゃ。。。

じゃあ何を見てたんだ?


「助けてー! 助けてくださいー! わーん!」

狸の声がする。捕まったみたいだな。


「こんな簡単に捕まる作戦無謀ですよー! わーん! 助けてー!」

狸が叫んでいる。

いや、囮作戦って気づくだろ!


「わーん! わーん!」

あー、もう、そんな泣いたら本人じゃないってバレるだろ!


「わーん! わーん! ボクは狸なんですよー! ほら、見てみて、狸でしょ! だから・・・ね・・・痛い事しないで・・・」

あぁ、この分だと、とっくに狸に戻ってるな。


「ああっ! うぅ・・・」

狸は攻撃を受けているようだ、諦めるしかないか・・・。



小屋の住人と狸の顔が変わるがわる、脳裏に浮かぶ。


あー! もう! こうなりゃ、出たとこ勝負だ!



俺は小屋から出て行き狸の元へと向かった。

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