第8話 訪ねて来たものは

 久方ぶりの王宮で夜を過ごしながら、ぼんやりと自室の窓を眺めていた。

 外の城壁では、警備の影と揺れるたいまつ。


 フラニーは捕らえてある。

 "すべてはリーリンスが仕組んだことで、自分は嵌められたのだ"と、擦り寄ろうとした。


 以前の俺なら取り合ったかも知れないと思うと、己に嫌気がさす。


 俺の名を騙った罪が表向きの名目だが、取り調べながら余罪を追及していくことになるだろう。


 廃屋にあったいくつかの物証も押さえ、暴漢たちの供述もとっている。


 違法薬物の取引だけじゃない。公爵令嬢に対して企てた陰謀も重い。

 娘のためなら黒焦げクッキーさえ食べるベルシア公爵が、大激怒している。


 事が大きいため、沙汰は国王夫妻両親が帰国してからになるが、本人および親族、そして関係した者には『厳罰』という言葉ではぬるいほどの処分が下されるはずだ。


 従者に扮していた男は、彼女の情夫だった。

 "男好き"というのは、リーリンスのことではなく、フラニー自身の話だったのだ。


 しかし、俺の周辺の解釈が、そんなフラニーを探るため、俺自身が"男爵令嬢にハニートラップを仕掛けていた"という話になっていたのには驚いた。

 肝心の婚約者・リーリンスが哀しみ、宮廷の勢力図も不安定になりそうだったのを見て、夜会で「婚約破棄はしない」と明言したとか、なんとか。


 この二週間、"王太子"は違法な薬を国に浸透させないため、徹底的に取り締まり、対処していたらしい。


(俺が"猫"をやっている間に、何があったんだ……)


 "俺のニセモノ"は、俺の不在中、やたらと"ヴィクター・ランデル"の評価を高めまくっていた。


 各拠点を摘発し続ける中、今日は突然「本拠地がわかった」と騎士を率いて王宮を出たらしい。

 俺が身体に戻ったのは、その騎馬途中だった。


(魔石の効果が切れて元に戻ったとしてもだ。結局、"俺のニセモノ"は何だったんだろう?)


 この身体に入り、"王太子"として振舞っていた何者かの正体が、わからない。

 精神が分割されていた感覚もない。


 何の手がかりもないが、これを解決しないと、面妖さが残り過ぎて安心できない。

 フラニーのように名前を騙るどころか、俺自身を乗っ取っていたのだから。


 それにしても。


「ニィーニは、どこに消えたんだ」



     ……にゃあん


「!!」

(いま、俺の声に呼応した鳴き声は!!)


「ニィーニ?!」


 急いで開けた窓の外には、リーリンスの猫が。

 ニィーニが、居た!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る