第33話 らいかんさんと桜クエスト。
―――桜クエスト。
王国の東にある、ブラーサム地方に生息する桜アニマルを討伐・捕獲をする、王国の年度行事です。
桜アニマルが生息するエリアは、国によって厳重に出入りを管理されており、乱獲が出来ないようになっていますが、この桜の季節にだけ狩猟が解禁されます。
桜アニマルは、スミッツの鼻垂れを直したように、薬の材料になります。
その権能は、『増強剤』と『解毒効果』となります。
リファイン草は毒草でもあるのですが、精製過程でかなりの毒素を抜くことができます。ですが、それでは、僅かに残った毒素が邪魔をしてその効果が半減しています。
そこで、活躍するのが桜アニマルの「桜の花びら」で、上手に使うことで、その毒素を分解し、更に効能を増強させることが出来るのです。
それを、わたしたちは、『桜効果』と呼んでいます。
唯でさえ、効果抜群のリファイン草。最上級薬草とも言われている草。
それに、桜効果で増強したのですから、ちょっとしたエリクサーなのも納得頂けたでしょうか。
これが、王国管理の直轄地で出入りが制限される理由となります。
要は、乱獲させないことと、王国の桜モンスターへのリスペクトですね。
では、何故期間限定イベントなのか。
この時期の桜アニマルには、頭に桜が咲いています。
その花びらに、桜効果があることから、この時期の狩猟に意味があるに他ならないのですが、『頭にお花が咲いていない桜アニマル』は、獰猛で強く、そして全個体で違った状態異常をデバフしてくる厄介なモンスターです。
そして、何より奴らは協力して襲ってくるのです。
わたしは、彼らとお話ができるので襲われませんが、『花咲く頃』以外で密猟を試みた冒険者や盗賊の末路を、何度も見てきましたからね。
あいつら、わたしにハーブティーを出して、「ゆっくりしていってね。らいかんさん♪」と言った傍から、密猟者に向かって、毒液やら痺れ針やら謎の酸やらを吐きまくり、動かなかったのを、バリボリ食べるんですよ? 怖いわー!
わたしにとっても「強くて、獰猛で、毒々しくて、常識知らずの無法者」な、花咲くころ以外の桜アニマルです。人間から見たら触るな危険な訳なのです。
それが、『頭にお花が咲いた桜アニマル』は、頭がお花畑になっていますから、安全なのです。
―――その年に『桜の加護』を受けた者に限ってのお話ですけどね。
◇
教授とスミッツの話から推測するに、今年の加護持ちはハズレでヘタレ。
だから、騎士団が危険を侵してでも、最低限の桜アニマルの討伐・捕獲に向かったということなのでしょう。
それで、加護のないスミッツは、無茶をして『桜酔い』で昏睡となった。
そんなところでしょうか。
恐らく、王国としても騎士団としても、今は一大事なのでしょう。
だから、教授は、アナリーさんにしっかりと説明をして、わたしへの手紙も用意して、万全の状態でこの聖騎士を送り出した……のでしょうね。
教授の努力は、残念過ぎる結果となるのですが、わたしにこのことが伝わらなかったことにより、最短で今に至っています。
これが、何というか、彼女の『持っている』ところなのでしょう。
そして、恐らく彼女が今得ているのは、大精霊ちゃんの特別な『あれ』の加護。
むしろ祝福――。
だから、面倒ですけど、わたしは、お世話になっているこの国に恩返しをする為にも、提案をしたのです。
「ねぇ。提案なんだけど、アナリーさんに桜クエストさせたら?この人多分……『持ってる』人ですよ?」
ただ、皆さんもお分かりかと思いますが、とっても不安です。
この人、天然うましかだもん(はぁ……。
絶対に、自分の師匠が昏睡になった理由を理解していませんよ?(白目
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