第36話 再び「老主の間」
労働を禁止するプレーナ教において、労働に従事する狼神の旧信徒を管理し自らも労働に従事するプレーナ教徒は「罪深き信仰者」と呼ばれている。
カイルやテラリオのような若者たちにはその罪の意識は希薄であり、狼神の旧信徒の若者たちにも仲間意識を持ち、共に神帝国での生活を夢見ていた。
しかしそのような若者たちは罪深き信仰者の中でも異端であり、大半の罪深き信仰者たちは老主に従う立場である。その罪深き信仰者たちにより、サミルとセミルとジライオは捕まった。彼らの親もまた罪深き信仰者であり、何より老主の命に忠実だった。
そんなことも知らないヒラクは、サミルとセミルの父親の陽動にあっさり騙され、四階層の広場に姿を現したところを老主の手下である罪深き信仰者たちに捕まり、六階層の老主の間に連れて行かれた。
「……それで、今までどちらにいらっしゃったのですか?」
石のテーブルの前に端座して、老主はおもむろに口を開いた。
ヒラクはふてくされ顔で老主の前に足を投げ出すようにして座っている。
両脇には槍を構える二人の男が立っていた。
黙り込むヒラクののど元に槍の先端が向けられる。
「答えなさい。狼神の旧信徒の居住区にいたことはわかっているのですよ。誰にかくまわれていたのか言いなさい」
「言うもんか」
ヒラクは老主をにらみつけた。老主は軽く嘆息した。
「やはりあなたは狼神の使徒の息のかかった人間ですか。その姿は我々をあざむくためのものだったのですね」
「狼神の使徒なんて知らないよ。大体おれのことは黒装束の民にまかせるんじゃなかったのか」
ヒラクは老主に食ってかかる。ヒラクの両脇の男たちが殺気立つ。
老主はヒラクに槍をつきつける男たちを手で制した。
「もう分配交換の場にあなたは必要ありません。大方、狼神の使徒たちがプレーナ教徒たちを惑わすためにあなたをうろつかせたのでしょう。黒装束の民の裁きを受けさせるまでもないことです。あなたにはここで消えてもらいます」
老主の言葉にヒラクはぎょっとした。
「ちょっと待ってよ。おれは分配交換の場に出て黒装束の民に会わなきゃならないんだ。ユピを助けなきゃないんだよ」
「ほう……」
老主は目を細め、我が意を得たりと言わんばかりにヒラクを見た。
「やはりこちらに姿を見せたのは、分配交換の儀式のためですか。神帝国と共謀し、狼神の使徒たちはプレーナ教徒を滅しようとしているのですね」
「知らないよ。とにかくおれは、その場にいなきゃならないんだ。ユピの命が危ないんだよ」
分配交換の儀式にヒラクが参加したことで、どうなるのかはヒラク自身にもわからない。それでもその場に現れるだろうテラリオからユピを取り戻さなければならない。そして父イルシカが言っていた黒装束の女にも会わなければならない。
ヒラクは、いつも目先のことだけを考えて行動しているため、老主が期待するような大局的な視点や行動原理を持っていない。そのため、老主にはヒラクを理解することができず、話がまるで噛み合わない。
「心配しなくとも、あなたと共謀し狼神の使徒たちに加担した神帝国人は私どもがみつけて、同じところに連れて行ってやりますよ」
老主は話を自己完結させると、口元に笑みを浮かべ、ヒラクの両脇に立つ男たちに命じた。
「審問の牢獄へ連れて行け」
ヒラクは驚いて目を見開いた。
そこは、かつて自分が迷い込んでさまよい続けた場所だった。
その時はアクリラの手を借りて偶然にも脱出に成功したが、罪人たちが命を落とすまでさまよい続ける処刑場であることを知った今は、二度と出られる気がしない。
ヒラクは自分に槍を突きつける男たちの隙をつこうとしたが、男の一人が一瞬でヒラクを軽々と肩にかつぎあげ、もう一人の男が暴れるヒラクを押さえつけた。
男たちはヒラクを連れて審問の牢獄へ向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
罪深き信仰者の解説と三神関係図
https://kakuyomu.jp/my/news/16817330655076705634
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます