『雨の情景から始まる魂の4000字企画』 BEST 5
冷たい雨が降りしきる裏町にひっそりと佇む夢幻常磐堂書房。
古めかしい店内の趣きに、濡れそぼった客が取り出した古ぼけた覚書。
そして切迫感を漂わせる客とそれに対峙するすっきりと清潔な風貌の青年店主。
冒頭からそれらの情景が巧みな筆致により過不足なく描写され、また小気味の良い流れるような語り口調も相まって読み手は一気にその世界観に惹き込まれる。
書物が所有者の逝去により心ならずも流転の憂いに晒されてしまった逸品であると知れ、その後の店主の計らいに然もありなんと喝采を送りたくなった。
そしてラストでは銘が打つように古書の正体が明かされて、作品にいっそうのリアルさを加えている。
読み終えてふと思い浮かべたのは付喪神。
道具は百年経つと精霊を得るというが古書もまた然りではないだろうか。
そうした謂く在りげな書籍の集まるその妖しい書店を一度は訪れてみたいものだと感じ入った読者は自分だけではないだろう。