未知との遭遇イン本屋

カニカマもどき

第1話

「この本屋の中から、『タヌキのことが好きになれる本』を20分以内に一冊選んでワタシにおすすめしてくだサイ。出来なければ地球を滅ぼしマス」

 突然あらわれた宇宙人にそのような難題をふっかけられたので、私は面食らった。


 一旦、状況を整理して気持ちを落ち着けよう。

 私は、通い慣れた大きめの本屋内をぶらぶらしていた。急に周囲の人間の動きや音が停止したかと思うと、銀色のグレイ型宇宙人が私に歩み寄ってきて、冒頭のセリフを吐いた。以上、終わり。

 うん。整理してみてもさっぱり分からない。


「本を探しに行かないのですカ? ゆっくりしている時間はありませんヨ。あと残り16分」

 宇宙人に急かされ、ふらふらと出発する。

 しかしどこを目指せばよいのか。

 物音ひとつない本屋をおっかなびっくり歩いていると、くしゃみの途中で停止してしまったご老人を発見。

 思わず笑ってしまったことで、ちょっと精神の安定を取り戻した。


 そうだ。私は地球人代表として、そこそこの本好きであることを自負する者として、宇宙人さんにしっかりと本をおすすめしなくてはならないのだ。

 そう考えた私は、とりあえず書籍検索用の端末へと向かう。

 だが、停止した時間の中では端末が動かなかった。ジーザス。

 自分のスマホも同様であった。

 となると、検索に頼らず自らの知識や足でもって本を選ばなければならない。


 宇宙人からのお題を反芻する。

 『タヌキのことが好きになれる本』とは何か。

 動物図鑑などでタヌキのことを知ると好きになれるだろうし、地球の動物を知らない宇宙人にとっては特に面白いだろう。これはおすすめできる。しかしちょっとひねりが足りないか。

 絵本系で攻めるのも意外とありかもしれない。いい絵本は普遍的に人々の心に刺さるものだ。『ごんぎつね』はキツネだし……『カチカチ山』はけっこう残酷だし……

 それとも、古典文学とかのほうがいいか。

 いや、そもそも面白い本をおすすめ出来ればそれでいいのだろうか。

 何か別の意図やメッセージがあり、それに答えられるかが試されているのでは?

 うーん、分からなくなってきた。


「時間でス。答えをお聞かせくだサイ」

 タイムリミットだ。試すような目で見てくる宇宙人に対し、私は口を開く。

「はい。私のほうから、ただ一冊をおすすめすることは出来ません。この本屋には様々な素晴らしい本があり、優劣をつけることなど出来ないのです。これが私の答えです」

「いや、そういうのいいですカラ。あと2分以内に選んでくだサイ」

 一蹴されてしまった。


 時間がないので、私は見慣れた文庫本のコーナーに向かい、自身の好きな本を手に取ると、宇宙人に見せた。

「これが私のおすすめする本、『有頂天家族』です。京都を舞台に化け狸一族の三男坊たちが騒動に巻き込まれたりするファンタジーで、冒険、家族、天狗、金曜倶楽部、叡山電鉄など……うまく説明できませんが、わくわくする要素が満載で、タヌキのことが好きになること請け合いです」

 それを聞いた宇宙人は、にっこりと笑った。ように見えた。

「ありがとう。読んでみマス」

 そう言って、宇宙人は消え、止まった時間は元に戻った。


 *


 以上が、私の体験したことの顛末である。

 きっとあの宇宙人は、はじめから地球を滅ぼすつもりなどなく。

 ただ、ときどきああして、面白い本を発掘して楽しんでいるのだ。

 だから……

 いつか、あなたの身にも、同じことが起こるかもしれない。

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未知との遭遇イン本屋 カニカマもどき @wasabi014

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