三つの幸せ

少女は、寂しい部屋に残された地球儀を回し、遠い国で暮らす父のことを思う。


あの広い胸に抱かれると、どんな匂いがするだろうか。


私を胸に抱いた父は、どんな顔で笑うのだろうかと。



少女は、冷たい部屋に残された望遠鏡を覗き、遠い星で暮らす父のことを思う。


あの大きな手が髪を撫でると、どんな気持ちになるだろうか。


父は私の髪を撫で、何を語るのだろうかと。




二人は、優しい家に残された写真の中の、遠い遠い父のことを思う。


繋ぎ合った両の手の温もりを。


失われた三つの幸せのことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る