第2話迷宮深度2

 かつて世界大戦で国々が疲弊する中、謎の構造物・通称・迷宮が各地に発生。


 世界大戦は有耶無耶のままに終わる。


 なぜならば迷宮から魔物のが溢れ出し、各国の大都市へ侵攻してきたからだ。強大で強靭な魔物の攻勢に人々は殺され食い荒らされてしまった。


 やがて世界の人口は急激に減少し数年も経つ頃には人類が半分となってしまった。そこで国々が一丸となって国際連合軍を結成。魔物なるものを殲滅、駆逐する事を決意する。


 大型の魔物には銃器などは牽制程度しか効果がなく、迷宮の攻略の為に人間の生命がドンドン擦り減らされていった。


 人類は連合軍ですら抵抗も出来ず。次々と都市に侵略してくる魔物に生きることすら諦め絶望した。


 しかし、魔物との生存競争の中“超越者”と呼ばれる者達が台頭して来る。


 彼らは素手で大地を裂き、蹴りで魔物を粉砕し、人間とは思えない速度で走る。


 救世主とも呼べる存在に人類に光明が差した。そこで国際連合軍が探索者協会なる組織を発足。超越者達を筆頭に迷宮探索者への物資の支援や、探索のノウハウの教授を始めた。


 世界大戦が有耶無耶で終わった性で、現在に至るまでに小規模の紛争や水面下での勢力争いが行われている。


 過去に活躍した超越者達は現在でも存命であり戦争のの抑止力ともなっていた。


 国々は国力の増大、戦力の増強は超越者を目的に密かに動き出した。


 しかし、迷宮黎明期から現在までに数人程しか超越者は誕生していない。なぜならば彼らが超越者キチガイと呼ばれるには理由があったからだ。


 一人も漏れなく頭のおかしい性癖を持っていたり嗜好が狂っていた。のちの研究では特殊な装備品・レガリアの特性が影響していると判明。


 酷い二つ名が超越者達に与えられている。その中でも特攻脳筋狂戦士。変態魔物強姦野郎。クソロリペド幼児性愛者触手愛好家テンタクルフ〇ッカー。目も当てられない程の酷い二つ名だ。


 中にはまともな超越者もいたが、どこかが歪んでいた。国々は思った――これ以上超越者が増えないでくれ、と。


 なので探索者達のアベレージ平均値を底上げするしかないとサポート関係を手厚くしている。最近流行りの迷宮配信者達が使用している『魔導器アシガル』も日本國の技術者が開発しワールドヒットさせた一品だ。


 大戦時、日本國の年号は大正であったが国際連合軍が発足された際に国際的に迷宮歴で統一されている。


 現在は迷宮歴八十二年。黒喰は結構なおばあちゃんであり、ハイテクなアイテムにはとっても疎いのでだった。


「おい、ジジイ。俺のアシガルを用意しろ――フルオプションでだ」


 ボロイ外観の迷宮ショップ『万屋亀太郎よろずやかめたろう』に来店している黒喰。


 店主である爺さんとは旧知の中なのかぞんざいな扱いをしている。『魔導器アシガル』のフルオプションの値段は桁が凄まじく。高級車を軽く数台購入できるほどの金額だ。


 無駄にデカい胸をブルリと震わせ、店内のカウンターに肘を置き頬杖を付いた。褐色デカパイに店主である爺さんの視線が向くも鼻で笑われる。


「ハッ、ババアの色仕掛けでも値切りはせんぞ! どうせならピチピチの女子コウセーでも連れてこんかいっ!」


「ブッ殺すぞジジイ。次、ババアって言ったら貴様のナニを捻じり取ってやる」


 黒喰の両手をバキバキと骨をながら脅すも爺さんは動じない。この定番のやり取りは数十年も繰り返されている。クソみたいな腐れ縁だが意外と仲は良いようだ。


 爺さんが溜息を吐きながらアシガルのカタログを提示してきた。


 コンコンと、カタログの金額の部分を指で叩いた。


「おめぇ、金あんのか? 『宵越しの金は持たねえっ!』といつも言っているの万年貧乏人が金払えんのか? あ゛あん?」


 黒喰は迷宮の探索をテキトーに済ませ日銭を稼いでいる。潜るのは精々生活の為に月に一度くらい。


 あとはナニをしたくて溜まっているときにしか潜らない。その為、かなり昔に買ったボロイ一軒家で酒浸りの毎日であった。


 カタログに書かれている金額を見ながら冷汗を流す。――しゅんごい高い。おいちいお寿司が一杯食べられるやんけ。


「……迷宮深度計と……魔導キューブをくれ。それなら俺の財布でもなんとかなる」


 迷宮とは深度のレベルが増すほど強力な魔物が生息している。迷宮探索者としての必須アイテムである迷宮深度計は探索者協会が確認できている深度7まで計測できる。


 魔導キューブは一立方メートルの荷物をサイコロサイズまで圧縮して持ち歩けるのだが、重さが変わらないので不人気商品である。


 しかし、超越者たる黒喰は複数個持ち歩いても平気なのでアドバンテージが高い― ―不人気の割にはお値段も相応に高いのだが。


「おめぇ深度計も持たずに探索とは舐めてんな? まぁ、おめぇには必要ないか……ああ、魔導キューブは中古の奴ならちっとは安くできるぞ? こんな不人気商品買う奴はそうそういないからな」


 カウンターには懐中時計の様なタイプの使い古された深度計と魔導キューブが放り投げられた。それを受取ろうと手を出すと爺さんに払われた。


「何すんだよ!?」


「…………金は?」


 そう問われると黒喰の視線が泳ぎ始め、えへへと可愛く笑う。


「――ツケといて?」


「帰れッ!! クソババア!!」


 怒鳴られて追い出されそうになるも一生懸命ゴネにゴネて割り増し払いを約束し商品を受け取ることができた。


 しかし、渡された商品は廃棄予定の品物であり店主ボッタクられた事に気付いた黒喰は後日復讐を誓うのであった。







 超絶カワイコちゃんである凛ちゃんとの迷宮探索を楽しみにしていた黒喰は、奮闘空しくもアシガルの調達に失敗してしまう。


 気持ちを切り替えまず初めにしなければならないことがあった。


 迷宮最深部を目指すにはお互いのバディとしての実力を試さなければいけなかった。


 いい所を見せようとアシガルのフルスペックを購入しようとしたが即座に頓挫、なので迷宮協会の支部にやって来ており実力を試す手頃な迷宮はないかと探しに来ていた。


 協力を約束したのに逃げ出した凜ちゃんとは出口で合流して連絡先を交換はしている。その際に距離を取られてしまっていたが軽い打ち合わせを行っていた。


 探索者協会にやってきたのは良いのだがボードに貼られた依頼書にはピンとくる迷宮がなかなか見つからない。


「う~ん。この付近の迷宮深度は初心者にはきついんだよな。深度2、深度3、深度2…………」


 迷宮深度がひとつ上がるだけで魔物の強さも特性もガラリと変わって来る。毒を持つ個体や粘性体であるスライムなど初心者キラーとも言われている。


 迷宮探索ゲームなどが一時期流行り、舐めてかかった初心者ルーキーの犠牲者が大勢出た年もあった。


 さらに迷宮配信者なるものでお金儲けを企んでいる新人が今年は多く、探索者協会は頭を痛めているようだ。


 へたな男性探索者よりも背が高く威圧感のある黒喰は目立つ。依頼ボードの前を黒喰が陣取って近づくことが出来ない探索者達。それの雑魚を見下すような視線を向ける受付嬢が黒喰に声を掛けて来た。


「黒喰さんどうしたんです? 貴女が深度の低い依頼を探してるなんて珍しいですねは?」


 この受付嬢は珍しく黒喰に話しかけられるベテランであり、眼鏡をかけたクール系美女である。水系の色である髪色にスタイルもスレンダーであり黒喰のデカパイを親の仇の様に思っている。


 髪色にその人間の特性や“魔導”なるものの属性もあらしており、受付嬢は探索者だった時代に『操水の魔女ウンディーネ』と呼ばれていた強者である。もちろん、黒喰の後輩でもあり共に迷宮へ潜ったこともあった。


「ん、ああ、久しぶりじゃんキル子――ちょっと、初心者っぽい子と潜ることダイヴになってさ」


 探索者協会の人間の間では迷宮に存在する瘴気の海を進むことから探索者の事をダイバーや探索する事をダイヴと呼ばれている。


 長年、探索者である黒喰も協会の人間との会話の際にちょくちょく使用している。それはなんかカッコいいからという個人的な趣味でもあったが。


「キル子と呼ぶのは貴女だけですよ? 私には切絵きりえと言う立派な名前があるんです。――いくらクソ共をブッ殺したからキルKill子なんてひどいです」


 黒喰と切絵はかつてコンビを組んでおり男性に人気があった、黒喰はなんだかんだと近寄りがたいが美女であり、切絵は線の細いスタイルに薄幸の美少女の見えていた。


 迷宮内は犯罪が横行しやすい。なので必ず女性だけでパーティを組むことは珍しく手籠めにしやすそうな切絵が狙われた。


 二人とも戦闘強者であった為離れた位置で戦闘を行い効率的に行動していた隙を狙われたのだ。悲鳴が上がり急いで黒喰が戻った時には水系の魔導で切り刻まれた男性パーティが数組ほどのバラバラの残骸が落ちていただけだ。


 仲良くなってネンゴロになれるかなと密かに期待していた黒喰は男性の股間を重点的に切り刻まれた様子にタマヒュンしたようだ。心の中で絶対に手を出したらアカンリストに切絵が登録された瞬間でもあった。


 それ以来、探索者協会で絶対に逆らってはいけない受付嬢と噂になり、婚期が大幅に遅れ、現在※※歳である。(個人情報保護の為モザイクを掛けています)


 切絵の年齢を想像しそうになる頭を軽く振りながら本題へ戻る。


「初心者向けの依頼と実力試しに手頃な迷宮はないかな? 金欠で死にそうなんだよ……」


 額に手を当てながら呆れた表情をされる。黒喰は切絵とコンビを組んでいた時も年中金欠でよく飯をたかっていた前科があった。


「貴女が金欠じゃない時はないんですか!? せっかく私がお弁当を作って協力していたのにその性格は直りませんでしたね!」


 低級の魔物を調教し利用した『魔物レース』や『パチンコ』なるギャンブルへ毎回金を突っ込んで負けている。まともに働けば遊んで暮らせるのに常にお金を持たない状況になっていた。


「えへへ、また作ってよ? キル子のご飯美味いんだよな」


 自身の手料理を無邪気な笑顔で美味しいと言われ顔が赤くなる切絵。なんだかんだと黒喰とのコンビの相性は良く。黒喰への好意すら持たれている節があった。しかし、長年の童貞処女をこじらせた黒喰は気付いていない。なんだかんだと言い訳を作ってヘタれてしまうのだ。


 その癖、女性キラーなセリフを平気で吐いている。陰ながらモテていることに気付いていないアホなのであった。


「――っ! わかりました。今度私の家へ食べに来なさい。――――ほら、手頃な迷宮ならコレね」


 デスクから取り出した分厚いバインダーを捲っていく。そこに挟まれていたファイルの中から引き抜いた書類には『漂う胞子の迷宮』と書かれており迷宮深度は『2』、初心者には少し難しいのではないか? と言いかけるも。


「ここは対策さえキチンと立てれば魔物の強さは深度1相当です。食材としても高値が付き易く金銭を稼ぐには向いています――味はとても美味しいそうですよ? 見た目はともかく」


 黒喰の目的地は決まったようだ。褐色のデカパイに挟んであった特別な探索者カードを切絵に渡すと探索許可証を発行してもらう。潜行日程を探索者協会に提出する事が義務付けられているからだ。


 日程を過ぎても帰還しない場合は捜索隊が組まれる事もある。もちろん、掛かった費用は自己負担だが。

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