閑話③ No.0─ return of the tyrant 〈1〉

「ふわぁ〜⋯⋯ん?」


錬があくびをしながら食堂に入ると、数人の子供達が集まって首を傾げながら何かを見ていた。


気になった錬はすぐに声を掛けた。


「おはよう〜どうした?」

「あっ!錬お兄ちゃん!みんな、錬お兄ちゃんが来たよ!!」


一人の少年がそういうと子供達は一斉に立ち上がって錬の前に行き、少し困ったような表情をしながら1枚の封筒を錬に手渡した。


「なんだ?どこで貰ったんだ?こんなの」


錬が宛先を見ようと封筒を裏返す。


'封蝋なんて付いてる。異世界じゃ普通の立場のやつが送るもんでもねぇよな⋯⋯確か'


しっかり印璽も入ってる。


封筒をそのまま一周した錬は、頑張って覚えたレイアースの言語で書かれた文字を読む。


「ドルシェ⋯⋯?」


何処だっけ?ドルシェ、ドルシェ⋯⋯全く見当もつかない。⋯⋯一旦梓にでも聞きにいくか。


錬は封筒を一旦ポッケにしまい、子供たちに目を向けた。


「それで?これは一体何があったんだ?」


そう、そもそもこんな封筒ーー誰がここまで持ってきたんだ?そしてそもそもーーガキ共がなんで持ってるのかってことだ。


⋯⋯それが一番の疑問だ。


「うん!あのね、街にお出かけした時に、執事みたいな人が"錬お兄ちゃんに渡して"って言われたの!見た目も封筒だからーーどうしようかと思って」

「待て、なんでその執事は俺の名前を知っているんだ?」

「あっ!確かディアゲートの事を調べましたよ〜って言ったような」


違う子供がそう呟くと、周りの子供たちも「あっ!そうだ!」と同調している。


'というか⋯⋯何を頼りにこのガキどもに確信を持って渡したんだ?理解できねぇ'


だがーー。

何者かが俺達の事を嗅ぎまわってるって事はよーく分かった。


錬の表情は少し鋭くなる。

そのまま掌を子供達の頭にのせて「ありがとな、大事に渡してくれて」と笑顔を見せて一旦食堂から出ていく錬だった。



**


コン、コン。

硬い扉の外からノック音が聞こえ、中で話し合っていた数人が反応した。


「誰?こんな時間に」

「知らない。でもいきなりここまで来れるってことは錬かジュリアさんくらいだと思う」


「そうね」と扉を開ける。

その先には錬が真剣な表情で立って待っていた。


「梓、ちょっと話がある」

「⋯⋯はぁ、どうしたの?ひとまず中に入って」


硬い灰色の厳重そうな部屋が閉まり、中に入っていく。


厳重な部屋の中に入ると、数m真っ直ぐ進む道があり、その先には正方形20畳程の会議用のセットが配置されている。

 一辺の丁度間辺り、全部で四辺。その四辺の間に入る入口があり⋯⋯奥には何かの部屋があることがわかる。


錬はそのまま通路を通り抜けて会議用の机に荒い雰囲気でガシャンと音を立てながら座った。


「はい、ココア」

「おう、ありがとう凛」


静かな雰囲気で渡す凛と当たり前のように受け取る錬。そしてそれを仲睦まじしい光景だとニコニコしながら見ている梓。


「それで?あんたが静かなのは余程と思うけど?」

「あぁ、今すぐ純平に繋げてくれ」

「なになに?」

「これだ」


封筒を投げ捨てるように梓に渡し、文句を言いながら投げ捨てた封筒を拾う梓。


「宛先の所、ドルシェって書いてあるのは分かるんだけど、流石の俺も場所まで分からん。そんでこれを貰ってきたのはどうやらガキ共だ。それをガキ共に渡す時に言った言葉がーー俺に渡すようにって貰った手紙だ」

「あんたに?」

「らしいんだよ、すげぇイラッとすんだよな」

「あー。あんた挑戦状みたいなのムカつくタイプだもんね」

「そうだよ、超ムカつく」


足を机に乗せている錬が煙草に火をつけてイライラしている中、上に向かって煙を吐く。


「中身は?」

「開けてねぇ。開けたら動いちゃいそうだったから。念の為情報だけ聞いておくのと同時にーー周知させておく必要があったからな」

「そう。ドルシェ家は恐らくここ数年で一気に成り上がった新派の一つで、若い領主なはずよ」

「⋯⋯若い?」


錬が首を傾げる。


「ええ、小さい頃に両親が亡くなってからーーずっと一人でいつ来るかとわからない暗殺に耐えれるほどの力と忍耐強さを兼ね備えていると情報がある」


「ふーん」と錬は口に咥えた煙草を一吸い。


「はぁ〜。純平に聞く前に解決したからーー手紙とやらを拝見するかね」

「用件は終わり?」

「あぁ。それが分かれば、後はどう料理するか決まってるからな」


そう言いながら凛が封筒を切る専用の道具を手渡し、手を上げて礼を返す錬。


錬はそのまま封を開け、中身の手紙に目を通した。



始めましてーー"神門"錬さん。私はドルシェ家現当主のヴェルグ・ユータス・ドルシェと申します。

 いきなりこんな無礼な形で送ってしまった事ーー非常に申し訳無く思います。お会いになった際には────キチンとお礼をさせていただこうと思います。


さて、いきなり思いもしない所から手紙が届いて混乱されているでしょう。理解もできます。


ただ、私は貴方と一度話がしたい。


もし受けてくださるのならーー一ヶ月後、記載されているこの場所にて、貴方を待ちます。貴方一人で来る事を信じて


そして約束の地になる事を夢見てーー。



「なんだこれ?」


錬が呆れたように手紙を机に放り投げると梓がそれをキャッチして同じように目を通す。


「何これ?アンタ何したのよ」

「まじで身に覚えがない。だがーー」

「フルネームを何故知ってるのかは本当に分からないわね」


言葉を遮って梓がそう冷静にツッコミを入れた。錬が不敵な笑みを浮かべる。


「分からねぇが、喧嘩を売りてぇなら買うけどな」

「そんな感じはしないけど⋯⋯」

「ま、とはえいえいろいろ不可思議な点は多い。予定日とやらの日に俺は行くぞ」


「本当に言ってるの?罠だと思うけどね」と梓が馬鹿にしながら言うと、錬が肩をすくめる。


「どうせ俺らより強い奴も少ねぇだろう?ワザと嵌ってコテンパンにしてやんだよ後で」


邪悪な笑みを浮かべる錬を溜息をつきながら勝手にしてと言わんばかりに横目で見つめる梓。


その後も、軽く他の内容も話した後錬は部屋から出ていき、いつものように施設の警備に勤しんだ。


それから時が経って約束の日ーー。


錬は知る事になる。

何を?⋯⋯暴君との再会を。


伝説との邂逅を。


世界を揺るがすーー世界一クレイジーな奴らと。

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