閑話② [Attention:Super important times] celebration
ここはある都心の中央にある一つの特殊木造住宅式という珍しい様式である一部屋しかない居間。さて部屋を覗こう。
人数は6人。
一人が寝返りを打てば軋む床。
壁は拳で殴ったであろう痕跡が複数。
ビリビリとクロスを破った形跡や中々ゴミだの散らかっているという名を欲しいままにしている20畳ほどの空間。そしてその中央では⋯⋯一人の少年とそれを守るように囲う5人の美女と少女達が見える。
全員が布団で寝ている訳でもなく、雑魚寝。
この光景はなんだろうか?大天使とその従者達?有り得ない程という名称を冠する美しい少年が寝息をたてる。するとすぐさまホワイトブロンドの女が自身の方へとすぐ少年を寄せている。
少年の顔が豊かな胸の中へと埋もれていく。
と、同時に──少年の呼吸が動きを見せる。
「⋯んっ〜」
幼い少年の声が漏れると、周囲の者達が声の方へと集まって逃すまいと擦り寄る。
「※『※『※『一」
「ん〜」
「おい!創一!」
「⋯⋯あ〜?ん〜」
煩い声と共に創一はぽけ〜としながら起き上がる。それにあわせて周りで囲んでいた美少女達も同時に起き上がった。
「かぁ〜!美女共を連れて寝るなんてお前はっ!」
「⋯⋯は?何?」
「分かってねぇな〜!見ろよこの部屋!」
全員が一周見回す。見終わるとまた赤髪の男の方へと向き直す。
「え?何?」
「寝具も、布団も⋯⋯⋯⋯」
怒りで顔をプルプルさせている彼の名前はリチャード・ソル・ミラー──。
外見は赤髪短髪で身長はおよそ189cm。程よく鍛えられている体をしている。
それでもっていつもヘラヘラしていて何でも適当──。それが表情に現れている程。
だが、"創一"と比べればという話である。
比べれば可哀想になってしまうが、分析をしてみると簡単。別に悪いどころか⋯イケメンである。ただ比べる相手が神のような人間が相手というだけ。
リチャード自身も女にモテてはいるはずなのだ。
「何にもないこの部屋で女に囲まれて寝る男が世の中に何人いると思ってんだぁ〜!あぁ?」
'くそっ!創一こいつめ!'
言う事を聞く女がいたとてだってんだ!自ら進んで好きを表現する女が囲んで寝るような環境なんだっての!
「え?別に、だから一人で寝てるんじゃん」
寝ぼけながらこぼす創一の言葉にリチャードがキーッ!!とイライラしながら膝から崩れ落ちる。
「俺達さ?一応金持ちじゃん?」
「え?うん」
「なのによ?なんでこんな20畳の部屋一つにトイレとバスルームしかないこのヘンテコな家に住んでるんだ?俺達、金あるよな?」
もはや泣きそうになりながら訴えかけるリチャード。
「みんな用の寮はあるじゃんか?別で」
「その皆がお前のこの家に住み着いたのが原因だ!つまり創一が来ればみんなが行くということだろ!?」
「俺は⋯⋯別に一部屋も要らないからな〜皆が使うからってので借りただけだからな」
「くそっ!」
機嫌悪そうにそう呟くリチャードに、一番近くにいるマキナがニヤニヤしながら口を開いた。
「でもそう言って男達も角っこで一緒に住んでるじゃん?」
「そ、それは⋯⋯色々あるんだよ!」
「あっそう」
流し目でニヤニヤ馬鹿にしながら創一の膝を枕にしながら横になるマキナ。
「えーずるい〜!!」
そう言ってまた天使達が膝元に集まっているのを男達は憎たらしそうに眺めている。
そこから落ち着いた後冷蔵庫を漁り、リチャードがペットボトルに入っている水を取ってラッパ飲みしながらハッと何かを思い出す。
「あっ!!」
「どうしたの?リード?」
「コル!ちょっと来いって!」
「え?なんーー」
強制連行されたコルトと何やら部屋の隅でヒソヒソ話している。初めは面倒くさそうに聞いていたコルトだったが、次第に表情が徐々に笑顔多めになっていく。
「それでな?』※※※だから俺達で※※※※※」
「なになに〜?」
気になった男達が隅で参加し始め、最終的には女達も集められる。
「あ~そういうこと」
「おうよ」
「あんた、普通にそうしてればモテるのに」
「あ~やっと俺の魅力に気付いちゃった〜?」
「褒めるとすぐこうなんだから」
マキナがそうこぼしながら創一の方へと戻っていく。
「それで?俺をおいて何話したんだ?リード」
「そんで創一〜?」
「⋯⋯?」
目の前にやってくるリードをポカンとしながら見上げる。
「飯の約束したよな?この間」
「あ~確かしたよな。すぐにでも行きたかったが、なんやかんやもう1週間くらい過ぎちまったな」
「そう、そこでだよ」
リチャードが嬉しそうに指を真上に上げる。
「ふん、俺が思いついた場所があるんだっ!予約をしたから夕方頃行こうぜ!それまで、久しぶりにみんなで外でゆるりしよう!」
それに対して一息しながら創一は笑う。それは納得したように。
「ふん。そうだな、俺もたまには外でないとな」
「よっしゃあっ〜!久しぶりに俺達全員で探検だァ〜っ!!」
リチャードが服を脱ぎながらそれを掴んで頭上で振り回す。こんなにも嬉しそうなリチャードをあまり見ることない一同は、つい嬉しくなってみんな両手を嬉しそうに突き上げた。
外見は全然みんな国が違うだろう。
いろんな顔の形をしているこの10人だが、全員本当の家族のように笑っている。とても嬉しそうに。
**
**
珍しく創一が外に出るというので気合を入れた全員がバチバチに決めた服と髪。女達は化粧で塗り固め、男達は髪型やアクセサリーをガッツリ決める。
そして創一といえば。
「創一⋯⋯⋯⋯」
「⋯え?どうしたんだ?」
全員が思わず笑ってしまうほど酷い姿である。
決めた全員の視線の先はーー真っピンクのジャージ。確かに生地やコスト的なことを考えると高級であることに間違いはないが、TPOという項目においては酷いこと間違いなしだろう。
「なんだ?その服?ひどいな」
「なっ!お洒落してきたんだぞ!」
そう返された全員が思った。
確かに。
顔が決まり過ぎていて、真っピンクのジャージ姿がお洒落しているようにすら見えてくる。ルッキズムの真骨頂!
「あ⋯⋯うん」
リチャードが悲しい口調でそう呟いた。
◇◇◇
ここはコヴェントガーデンの通路脇。
コヴェントガーデンはロンドンにある活気ある地区の事だ。創一達一行が住んでいるのが高級住宅街であるナイツブリッジの方だが、今日はある少年少女にとってはーークソがつくほどの特別な日。
たまたま歩いていた通行人の8割ほどがある場所に視線が必ず向いてしまう。
「⋯⋯⋯⋯」
ある一帯の階段に座る顔面偏差値MAXと言いたいレベルで凄まじいオーラを放つ8人。
モデルの撮影と言われても全く不思議じゃない程だ。
「ふわぁ〜、コルトは?」
欠伸をしているニックがリチャードに質問を投げかけた。
「しらね、露店に買いに行かせたのが運の尽きだろ。その内どっかに行き出すぞ?アイツは」
「え?シェイ、コルは何処に行った?」
「でも、目に入ったケバブでも食べる〜!とか言ってたよ?」
『ハァ?』と鼻息を漏らすリチャード。そうこうしていると、通行人の数人が8人の方へとやってくる。
「ねぇ?君達なんかの撮影でもしてるの?」
「え?してないけど」
「そうなの?てっきり映画の撮影でもしてるのかと思った〜!」
パッと見10代後半の不良っぽい相貌をしている数人。どう考えても女達を狙って会話をしに来ているのがすぐにわかる。
リチャードを含めた男達3人はだるそうにその光景を見ながら携帯を眺め、シェイラ達は面倒くさそうに応対している。
「俺らさ、今色々やっててさ〜良かったらやってみない?君みたいな娘だったらーー1日で数十は稼げるよ?」
「⋯⋯⋯⋯」
ホワイトブロンドの女はマキナである。マキナはボーイッシュな服装であるが、滲みだす色気と美女特有の空気感はすぐに男が釘付けになって数人の目線がマキナに向いている。
アッシュブロンドのボブヘアはシェイラ。
通常のブロンドでセミロングの髪型をしているのはグロリア。
「もっとらしい言葉はないのかい?」
マキナが溜息混じりにそう言葉を返した。男達はそのまま話を続けた。
「お?意外と話してくれるタイプ?ならーー」
ポケットから紙を出そうとする男の手首をーードヤ顔で思い切り振り払うマキナ。
「なっ⋯⋯!?」
「もっと考えなよ。私が1日数十如きで動くと思う?最低でも10は必要だから」
「1000万?」
「は?舐めたこと言わないでーー10億が最低ラインだよ。分かったらさっさと帰んな」
シッシッと手でばい菌を追い払うように嫌そうに払うマキナ。
「てめぇ!このっ!」
ムカついた一人の不良が拳を振り上げる。
「⋯⋯あれっ?」
不良の腕がピクリとも動かない。しかも何かに掴まれていると感じた不良は背後を振り向くと、そこには沢山の視線とーー真っピンクのジャージ姿の変な男が自分の腕を掴んでいることに気付いた。
「つッ!!なんだよお前!」
「⋯⋯わはぁ〜」
片手で不良の腕を掴みながらもう片手は口を覆いながらアクビをしている。
「創一!」
「なんだよお前!」
「お前ーー今殴ろうとしたのか?」
怠そうに呟く創一に対して一生懸命上半身を捻りながら大振りのフックを入れようと力を込める不良。
「おりゃっ!!」
「お〜」
全くその場から動く事なくーー創一は上体反らしで拳を避ける。
「くそっ!くそっ!」
そこから何度も拳を繰り出す不良だが、創一はアクビをしながら上体を反らして全部避ける。
「お前ーー」
「⋯⋯っ!!」
創一が力で不良の脇腹の薄い肉を掴む。
「あたたたたたた!!」
「ちょっと前の事だ⋯」
吐息混じりに創一は何かを思い出しながら話を始めた。
「ある場所で、まだ20にも満たないガキ達の集まる場所があったんだよ⋯⋯まぁ、学校みたいなもんだがな」
「そ、それがなんだよ!」
「ん?そこでは上下関係みたいなもんがハッキリしていて、強い奴ら⋯⋯つまりカーストが上の奴らが好き放題弱者ーーカースト下位の奴らを好き放題虐めていたんだよ。あれだぞ?内容は常人じゃ耐えれないほどのキツイもんだ。ずっ⋯⋯と続く行いに、到底強者に反抗する力など失っていく」
─「助けてください!!」
「きんも!!死ねってさっさと!!」
「何の話だよ!さっさとどかせよ!!」
「そんな時に一人の少年はこう思いました。
⋯⋯どうやったら、このクソッタレな奴らを倒せるかって」
無言で創一の言葉を聞き続ける不良達。
「その時思い出したんだよーー上位の奴らはいっつも雑魚を囲んで数人でドカドカ殴って、殴って、殴り続ける⋯⋯泣こうと、喚こうと、縋ろうと。その地獄のような景色を傍から見ていた別のある少年はーーその光景を止めるべく思いついた技と言っていいのか危ういモノを作ったんだ」
バキッ──。
不良は体から突然発した変な音に目線を落とした。目線の先には少年が肋骨付近に指を突っ込み、それはまるで⋯中が見えているかのような滑らかな動きで骨の近くを摘んでいる姿だった。
「俺から見たあの景色はーー正に家畜をこれからミンチにしようとしている工程そのものに見えたんだ。絶対的強者達が、腹が減って何かないかな〜って当たり前のように料理するように」
徐々に摘む力が強くなっていく。それは、もう不良のこめかみから脂汗が止まらなくなるほど。
「す、すまねぇって!!もう退くから!!」
必死にそう叫ぶ不良を、見ることなく目線を変えずに摘んでいるところ見続ける創一。
「あぁやって叩いたり、殴ったり蹴ったりしてれば、そりゃーーーーー旨くなるよな?美味しくいただけるようになるよな?」
「ううううううっつっっ」
悶絶しながら涙を流す不良のリーダー。
「人も、動物もーーもっと大きく分けるなら、生物というのは無意識にそういう風になる物なんだと理解したんだ。あの日から。あの時から。お前達はたかが少しと思うかも知れないし、本当のところーー人間の気持ちの誠は分からないだろう。しかし、一つ分かることがある」
そう言葉を呟いてから数秒。
創一の摘む力が更に跳ね上がっていく。不良の身体がふわっと少し浮き始め、思わず周りもドン引きしている。
「お前達は取り返しのつかない行動というものを起こしているということだ。そこの友達に一つ尋ねるーー」
創一が不良の仲間たちを冷静に見ている。
その後、彼らは語った。
あの人間程怖い人を見たことが無い⋯⋯と。
怒っている訳ではない。寧ろ冷静だ。
だが、あまりに落ち着きすぎていてーー何故か分からない感情と共に鳥肌が全身を走らせ、無限に湧き続けるあんな体験をーー二度としたくないと後に語ったらしい。
「例えば、そこにいる俺の連れがお前達よりも弱いとする。そうしたら、お前達は虐めるか、それかレ○○でもするのか?まぁそれはいい。とにかく、どうするつもりだったんだ?」
落ち着きながら不良達に尋ねる創一と叫び続けている不良のリーダー。
こんな状況で正常な答えなど答えれるはずもなかった。
「あ、え⋯⋯⋯⋯ーー」
「どっちなんだ?俺の言うとおりか?YESかNOなのかハッキリしてくれないか?」
全く怒りすら見せない創一の冷静過ぎる双眸。
不良達の中でも下っ端らしき数人は、もはや顔が小刻みに震えてすらいる。
「あ、あとでーー色々する予定でした」
「おいっ⋯⋯」
「嘘付いたってーー俺達ヤバイだろ」
「でもーー」
「だろうな。俺が言いたいのは、例えばお前らにそういう事をされた連れがーー終わったらはい元通り⋯⋯なんてなると本気で思っているのか?ならないよな?精神は壊されて、本気で男を恨むよな?復讐したいという気持ちに変わるよな?それって取り返しのつく事だと思うか?」
「思いません」
「そう。お前達を怒るつもりはこれっぽっちもない。勿論コイツにも」
そう叫びながら悶ているリーダーの不良をチラッと見ながら呟く創一。
「そう。怒るつもりはない。だからーーお前達と同じ事をやろうと思う。そうすればーー少しは落ち着いた好青年になれると思うんだ
そうだろ?」
そう言ったと同時にーー掴んでいた肋骨を完全に力を込めて握り潰した。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!゙!゙!゙!゙」
完全に握り潰した後、そのまま手を離して真っピンクのパーカーのポケットに両手を突っ込む創一。
ドサッと地面にしりもちをついた不良のリーダーは絶叫を上げる。地面に落ちた衝撃で粉々になった骨が小さくなりそのままチクチクと全方位に向かって刺さる痛み。
「たっ、助けてっ!!ーーうっ!!!」
両手を突っ込んだまま片足をリーダーの上から叩きつける創一。
「俺は理解できないんだよな。なんか勝手に被害者ズラし始める意味分からん連中に、反省しているのにと言う表情をするお前らの顔も」
重々しいドスッという創一の踏みつける音が何十回も響く。
反抗する力も残されていないリーダーはただ黙ってその足蹴を永遠に受け続ける。鼻は折れ、何十回も重い蹴りを直で貰い、胃液が口から大量に漏れる。
それが5分程続いた後、創一は足を止めた。
目の前には気絶している男と、血とゲロが染み付いた汚い服。そして泣き叫びすぎて付着した水を零したと言いたい程の水の流れていた跡。
良過ぎる体幹で足を止めた創一。綺麗な動きで途中で止めた為、ゆっくりと元に戻す。
「そうか。もうお前は十分に罰を受けた」
冷静な瞳で見下ろす創一。数人の不良達はやっと終わったかと胸をほっと撫で下ろす。
「あーあー」
静かな空間の中そう言葉を漏らしたのは⋯リチャードだった。もはや周りにいるシェイラやマキナ達も同様の反応を見せている。
「アイツ、怒ってるよ。だからアイツに無闇やたら喧嘩を売るなってこの街の連中に言い聞かせたんだけどな〜
創一が真正面で見下ろしている中、そのまま顔の真横へと移動した。誰もがもう終わったかと近付こうとした時ーーードン引きの光景が映ってしまった。
「H゙e゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙y゙W゙h゙a゙t゙'゙s゙ ゙a゙ ゙M゙a゙n゙n゙n゙n゙n゙!゙?゙?゙?゙?゙?゙?゙」
後にガゼルの動きでは絶対に見せないフルスイングの蹴りが横から直撃した。
1ミリも容赦がない半円を描くフルスイングの蹴り。
見てる方が同情したくなるほど振り抜くその蹴りは無防備状態のリーダーの顔面に入り、蹴りの力で30cmほど浮いた。
ドンとそのまま脱力した状態でもう一度仰向けに寝るリーダー。だが創一は止める様子を見せない。
「⋯⋯⋯⋯何寝てんだ?起きろよ。連れに力が無かったらーーこうするつもりだったんだろぉ?」
冷静だった創一の顔が徐々に悪魔味を帯び始めた。そしてゆっくりとしゃがみーーリーダーの髪を加減無しで掴み上げ、真横に持ってきた創一が悪魔の笑みを向けた。
「ねぇぇぇ〜?答えてくださいよ?レ○プかな?暴力かな?ハメ○○かなぁ?売春の道具かな?そんな奴らが暴力の数回で済むーーそんなこと無いですよねぇぇ?ふざけるのも大概にしないかなぁ〜〜???????」
悪魔の笑みを向けている創一だが、リーダーが起きることは無い。恐らくーー首の神経をフルスイングで壊してしまった為だろう。
何が言いたいというとーーこのリーダーは、死んでいる。
「⋯⋯⋯⋯」
悪魔の笑みは徐々に消え、なんとなく察した創一はそのまま路地裏へと髪を掴んだまま連れて行く。勿論ーー他の不良達も同様に。
**
**
「あれっ?」
リーダーは目を覚まし、困惑する。
「とりあえずーーお前、何処の奴らだ?」
創一が上から冷静に見下ろしている。そしてリーダーは何が起こったのか理解出来ない様子で周りに目を向ける。
「⋯⋯ひっ!!!!!」
リーダーは悲痛な声を上げる。
視界には見える高さ一杯に映る返り血に大量に並べられている人間の歯らしきモノ。しかもおまけに綺麗に並べられているのが気持ち悪いくらいだ。
一人は片腕が変の方向を向き、一人は足を抱えて泣き喚いている。一人は気絶し、一人は赤ちゃんのように地面で転がって変人に成り下がっている。
一周見たリーダーは創一が一歩迫ってくるのに恐怖で反応した。
「治っているな」
「はーー」
「さて、お前達はどの不良グループなんだ?最近流行っているのはイーストのペイ〜なんだっけ?ペイラッツだっけか?よく聞くぞ〜?最近はナンパに見せかけた若い女達を回収して無理やり動画を撮らされて金を稼がせるとかなんとか。なぁリード?俺達で集金に行ったときーーアイツらやってませんって言ってたよな?」
「の、はずだぜ〜?俺も確かにこの耳で聞いてたしな〜」
「ううっ」と悶絶しながら四つん這いの体勢を取っている上に足を組んで座るリチャードの姿。
そしてゆっくりとヤンキー座りをしながらリーダーの目を見る創一。懐から飴を取り出して口に咥え、「ん〜」という悩むような吐息を漏らしながらリーダーの指を触る。
「悪い事をしている跡が無い。てことはお前は初犯か⋯またはトカゲの尻尾切りみたいにやっている高度な連中か」
「お、俺は知らない!!本当に何も知らないんだ!!俺の目でも何でも見てくれよ!!!!」
そう言うと冷静に創一はリーダーの瞳を眺める。
「どうだろうな〜?分かんないぞ?急に殴りかかろうとする男だ。何考えているかなんてわからないぞ?」
「いっ、色々いるんだよ、な?この通りだよ!!」
「まぁ仕方ないな」
創一の言葉で助かったと思ったリーダーは溜息をついた。
「腕一本で終わらせてやる」
その一言を聞くまでは。
「え?う、嘘だろ⋯⋯?」
「一人の人生を終わらせようとした奴らがノーリスクで終わるなんてーー都合がいいだろう?」
悪魔の笑みを向ける創一に震えながらその場で縮こまるリーダーだった。
◇◇◇
「さぁっ!着いたぞ!創一!」
『おぉ〜』と思わず感嘆の吐息を漏らす創一。
あれから様々な露店や買い物という買い物をしまくったあと、高そうなビルの前に10人は立っていた。
「高そうな店だな」
「そりゃ俺の友達の店だからな!一流よ!」
隣をチラッと見つめ創一が軽く鼻で笑う。
「そうか。久しぶりの外食だもんな」
「とっておきのメニューだぞ〜?ほら、入るぞ!」
そう言ってリチャードが扉を開けて中に入っていく。中は完全に高級店と言っていいほどの空気感と対応。
思わず創一も丁寧な対応するほど。
そのまま奥へと進むと、店長らしき男がのそのそとこっちにやってくる。そしてそれを見たリチャードが嬉しそうに名前を呼ぶ。
「ベーイル!」
「リチャード、今回はキチッと予約通りに来たな」
「お前は何回ぽかすれば気が済むんだリード」
「あはははは」
適当な言葉で乗り切ってリチャードは無かったことのように話をすすめる。
「個室の案内でいいかい?」
「勿論!頼むぜ〜」
案内された場所は高層にある夜景の綺麗なワンフロア丸々貸し切った場所。個室とは一体何だったのか⋯そう問いたくなるほど広く、そして圧倒的過多である店員の量。
「ここはバイキングに近い奴か」
「あぁ、俺ら以外に客はいないから何をとってもいいし、名前だけいえば店員が新たに持ってきてくれるよ」
「おいおい⋯⋯中々金が掛かってんじゃねぇの?こんなのヤバすぎるだろう」
「良いだろう〜?久し振りなんだし」
リチャードの言葉に全員が微笑む。
「そしたら頼もうぜ〜!栄養過多になるくらい飯はあるからよ!」
「だな」
**
**
そしてそこから一時間以上の間、全員が楽しく雑談しながら最高級のバイキングを楽しんでいた。
「いやぁーあれからもう1年ちょっとだぜ〜?実感沸かねぇよ〜」
「確かに」
「コルト達も合流してから随分経ったよなーー」
するとその話を遮るようにフロア全ての電気が消える。当然創一を含めた全員が驚き、すぐに状況を確認しようと立ち上がる。
「なんだ?リード、火あるか?」
「⋯⋯⋯⋯」
「リード?」
再度尋ねる創一の横から小さい光と共に店員が何かを持って嬉しそうにやってきた。
「ん?」
『ハッピーバースデートゥーユ〜』
「え?」
『ハッピーバースデートゥーユー』
周りにいる全員も歌い始め、完全に困惑する創一。
『ハッピーバースデーディア創一〜!!』
10人が創一の前で笑いながら手を叩く。
『ハッピーバースデートゥーユー!!!リード!』
「おう!」
リチャードがそう言って一つの箱を創一に手渡した。
「
リチャードが全員に向かって「せーの」とタイミングを合わせた。
「おめでとう〜!!!!」
「⋯⋯⋯⋯」
「ほらっ!火消せよ、創一」
店員が持つケーキの上のロウソクに向かって創一は息を吹きかける。
無事火は消え、全員のお祝いの声が高層フロアに響きわたった。
「⋯⋯⋯⋯」
「創一〜?日本ではこうやって誕生日を祝うんだろ〜?」
「あぁ」
「どうした?なんかあったのか?」
「いや、お祝いなんてされた事がなかったからーー反応に困って」
創一がなんとも言えない表情をしながら目の前に見えるケーキとデザートを見つめる。
「あー!創一が泣きそうー」
「バカッ、ライアン!」
「ははははははははー!」
全員がそのままケーキを切り分けて幸せそうに頬ばる。創一も、他の皆も。
幸せそうにケーキ食べる光景。
それは本物の家族のように見える。
創一の脳裏にはーー昔の記憶が今になってかけ巡っている。
─「創一、誕生日ーーおめでとう!これ、新しい玩具だぞ」
─「創一様、生まれてきてくれてありがとうございます」
「⋯⋯ありがとう」
「ん?」
すぐに創一の方へ目を向ける。小さくボソッと呟いた創一の言葉にリチャードは何か言った事だけは理解しているが、内容までは聞こえなかった。
「いや、いい」
滅多に見せない創一の微笑み。思わずリチャードが真顔になるくらいには有り得ない出来事だった。すぐにいつものリチャードに戻ったが、一瞬真顔になったらリチャードの表情はーー嬉しそうな顔をしていた。
「⋯⋯⋯⋯」
「そういえばさっ、創一はやりたい事とかないの?」
コルトがフォークを皿の上に乗せてここぞとばかりに質問を投げかける。すると創一は「ん〜」と言いながら美しい夜景を流し目で見ながら考えている。
「そうだぞー創一?お前、いつもいつも俺達に金を掛けすぎだ!今月だってーー通帳から当たり前のように億単位の金が無くなってたぞ?」
リチャードが間に入って突っ込む。それに対して「そうだっけ?」と鼻で笑いながら返事を返す創一。
「そりゃ⋯俺達は助かるし、贅沢できるけど、お前はもっと自分に金をかけてもいいんじゃないか?」
全員がそうだそうだと創一に笑いながらツッコミを入れ始める。だが創一はやはり鼻で笑って返す。
「⋯⋯」
この上なく上品な夜景と創一の横顔が見事にマッチングしている。全員がその表情を見ながら満足して高級葡萄ジュースを片手にその姿を見ている。
「俺はーー」
ボソッと吐き捨てる。
何処か嬉しそうな表情で、だがーー切なそうな声色でこう続けた。
「俺にはーーもうお前らと施設で笑っているガキ共しか大事なモノが残ってない」
⋯⋯一瞬の沈黙。思わず全員が黙ってしまうほど、創一の満足そうな表情を見た全員が感慨深そうにニヤけている。誰も言葉を発せない。発せられない。
ここで何かを言ったらーー折角の空気感に水を差すことになるからだ。
そこからしばらく全員が無言で食事を続けた。だが決して悪い空気ではない。この上なく贅沢で、貴重な時間。その全てを噛み締め、浸り、幸せを共有しているのだ。
そして更に10分程が経ち、リチャードが思い出したように創一に尋ねた。
「あっ、そういえばーー」
「⋯⋯ん?」
「最近別荘に住んでるあの
「あ~、いたなそんな奴ら」
「おいおい⋯⋯いくら何でも酷くねえ?」
苦笑いを向けるリチャード。だが全くの無反応を見せる創一。
「別にアイツらはどうでもいい。お前らの方が大事だ。食料ならある程度あるだろうし、好き勝手にやるだろう」
「⋯⋯そっか。まぁ、創一が言うんならそれでいいけどよ」
見るところ、もうみんな食べ切った様子だった。それを見たリチャードはいつものヘラヘラした口調で店員を呼んで、一口サイズの葡萄ジュースを全員のグラスに注がせる。
「さて、最後にーー乾杯でもして終ろう」
全員が立ち上がり、グラスを合わせる。
「
全員が笑いながらチリンとグラスを再度合わせ、嬉しそうにこの会をキチンと終わらせた。
⋯⋯さて、一旦ここで彼らの話は終わる。
『おい!折角の創一の誕生日だぜっ!?写真撮ろうぜ!!』
長過ぎるからな。彼らの物語はまだまだ長い。
『はい、チーズ!!』
『おい!バカッ!創一の顔面に当たるっ!!』
パシャリ。
後に部屋に飾られた大きな額縁に入った一枚。彼らとの多くない思い出の一枚。今の足りない記憶の中の彼は何を思うのだろう。
何もないかもしれない。だが、それでいい。
いつか思い出すときが来るだろう。
──I'll tell you this story some other time.
ジジ⋯⋯⋯⋯。
ジジ⋯⋯⋯⋯。
キィィィィィンンン!!!!!
稲妻が私達の頭の中に流れる。
なんだ?これーーーーーー。。
◇◇◇※※※※国に存在しているある場所
ドンドンドン──!!!!
「ひぃぃぃっ!!」
ここはある組織の本部。
その外から扉をノックではなく、拳で叩く音がもう何十回も聞こえている。
中にいる数人は、あまりの恐怖で頭を抱えて地面で丸くなっている。
ドンドン──!!
「お〜い、誰かいないのか〜?集金でーす」
「お頭!流石に開けた方がーー」
数人の幹部達がマズいと開けようとするが、お頭と呼ばれる男がそれを遮って止めさせる。
「お前らは黙って隠れていろ。あの男は普通じゃない!」
数人は意味も分からず、ただ黙ってその指示に従うしかなかった。
ドンドン──!
ドンドン──!
「あれぇ〜?※※※、今日って集金の日で間違いないよな〜?」
「間違いなく集金の日ですよ。※※※※※」
謎の男達二人が扉の前で待ちぼうけを食らいながらどうするかと悩んでいる。
「まっ、こういう時はーー」
「え?ちょっと※※※※※?」
もう一人の堅そうな男が未来を察知して手を伸ばした時にはもう遅く、もう一人のおちゃらけている謎の男が両手をポケットに突っ込んだまま扉を蹴破った。壊れた扉は中へと飛んでいき、暗い空間が二人の視界の先をお迎えする。
「ん〜?」
おちゃらけている謎の男が中に入り、視線を右往左往させる。しまいには首を傾げて近くにある木の汚れたタンスを嫌そうな目つきで叩きつける。
「あれ、すっからかんだ」
ヤンキーのように座って壊れたタンスを下から流れるように覗き上げる。
ーー反応はイマイチ。
「そんな所にあるわけ無いじゃん※※※※※」
「まっ、そうだよな〜」
舌を出しながらてへっ★とギャル風に返すおちゃらけた謎の男。
「あれぇ〜、折角集金時に来たのに⋯⋯なんでこんな静かなんだ〜?」
「ほら、そこ」
堅そうなもう一人の男が奥で隠れている数人の人影を指差す。それに反応したおちゃらけた謎の男は立ち上がり、愉快に笑いながらゆっくり近付く。
「あれあれぇ〜?こんな所にいたのか〜一体絶対何があったんだ〜?」
「こっ、こんにちは〜エルドラド・エーヴィヒカイト殿」
顔中汗まみれの男達がハンカチで一生懸命拭き取りながらその名を呼んだ。
「お〜!リベお頭〜、数ヶ月ぶりだなっ!」
陽気な声色と笑み。
そのまま脆そうな一脚の上に大股開きで座る。
「いやいや〜つい最近報告を聞いたところによると、全然集金しにいっても「全く無いって追い返されちゃうー」なんて報告を聞いたもんだから、こうして来てみたけどーー何でこんなことになってるの?経営不振?」
※※※が目の前に小さい机のような置物を魔法か何かの力で取り出してエルドラドの横に並べる。そしてその上に煙草の箱ポイッと投げながら取り出した一本を口にくわえる。
「⋯⋯あ、あの〜」
「ん?どうした訳〜?」
'ま、マズイーー'
お頭は焦っていた。何故こんな事になったのか。事は一ヶ月以上前のこと。
『もう手がない!』
この街ーー王都付近にある小さな街である"ほっかいろ"。ここはエルドラドが仕切っている。領主は一応いるが、事実上この目の前にいるエルドラドの一言で全てが決まってしまうようなものだった。
数年前から話には聞いていた。突然現れた謎の超人集団ーー名を
⋯⋯奴らは突如として現れ、周辺領地でーーいわゆる悪の組織と呼ぶ者達の場所へといきなり数人で乗り込み、集金という言葉を使って金を巻き上げる集団だった。従わなければ解散させるという脅迫めいた言葉を使って。
そしてそのジーウェンハイルのリーダー格ーーその名がエルドラド・エーヴィヒカイトだ。
一見してみると、こんなヘラヘラして気持ちの悪い笑みを常にし続けている変な奴に見えるが、コイツはーーーー化物だ。
ちゃんと強い。他の超人だろうメンバー達も、何故かヤツの言う事だけはしっかり守って行動している。その為、上下関係がハッキリしていることから⋯このエルドラドという男がリーダーだということが理解できた。
当時ーーあの時周辺領地で支配していた謎の組織を、たった一人で半壊にまで荒らすだけ荒らしてそこから何をしたかというと⋯⋯集金という名の毎月の上納金の請求だ。
誰の命令なのか、それともコイツがただの鬼才なのかは知らんが、"合法的に毎月2000万ヒーロを集金するから用意しておけ"とだけ言い残して去っていったという。
今ならこの男が異常生物だというのが理解できる。私もそうだった。
もう思い出したくもない。
今より10倍以上も大きかった私の組織は人身売買の商売をしていた。その時、この化物とそこにいる弱そうな奴が現れて全滅した。
だが頭のキレるコイツは、残すべきものだけは残してそれ以外の物を消滅させたんだ。
そして課せられたのはーー2000万の合法的な上納金。何が集金だ。ただの脅しで金を巻き上げているだけじゃないか。
他言無用。噂が出たことが死のトリガーで、噂が出た段階ですぐに首を切ると全回収場所で言い回っているらしい。恐らく事実だろう。実際にこの集団の情報すら出た事は一度すらない。
そんでコイツらには大量の金が集まり、なにやらやっているらしい。
"らしい"というのは、調べたのを察知してすぐに手を打たれて無かったことになるからだ。だが、無くなるということは肯定とも取れるだろう。私はそう確信している。
『もう手がない』
何とか食いつないでいた合法的にやれていた商売の資源とのパイプがすべて切れてしまった。アイツら、上の連中と結託したせいでーー私にいい迷惑がかかったじゃないか。
'まぁそんな事があってーーこうして物をすべて売るだけ売って何とか繋いでいたのだが'
もう後がない。終わった。
「す、すみませんーー金がありません。も、もう一度チャンスを!!」
プライドもないお頭が土下座を決める。
「⋯⋯⋯⋯」
ヘラヘラしているエルドラドの表情が一瞬だけ真顔で見下ろしていた。だがすぐに表情は元通りになり、笑顔のままお頭の頭を掴んだ。
「いいかぁ〜?時代によって人間の能力というのは決まって〜昔だったら戦闘力だし、あっ、今もそっかぁ〜。だがーー今お前たちの能力を証明するために必要なことは、金を稼ぐことだ」
そう言いながら懐にあった小さく細い刃物を躊躇なく土下座をしているお頭の掌へと刺しこむ。
「ぐっううううううう!!!!!」
「分かる〜?今、君の能力が無いから稼げてないの。そんな無能にチャンスをやったところでーー飛ぶのが目に見えてる。約束通り、君とそこにいる幹部達は今日で解散〜!」
パンッ──!!
椅子に座りながら両手で勢い良く叩く。
「後は俺がいなくてもいいと思うから、下っ端にやらせるとしようか〜。後は頼んだよ、君達」
ヘラヘラしている中に見える狂気な瞳が存在感を消している暗殺部隊に声を掛け、二人はその場から立ち上がり外へと出た。
「おっ、お待ちを!!!」
「バイバイ〜」
軽薄な笑みと口調で出ていく二人を見ながら、男達は一瞬で暗殺者たちに殺されたのだった。
◇◇◇
外へ出た二人は、首都である※※※※の表通りへと出る。
「いやぁ〜アイツらも駄目だったか〜」
「まぁ、まだ回収拠点は36個もあるから問題ないと思うよ」
そんな返事を他所に首の後ろに両手を回しながら笑顔で青空を見上げるエルドラド。
「そう?」
「そういえばーーこれ見てよエル」
※※※が渡したのは一枚の依頼書。
エルドラドが手にとって内容を読んでいる。
「何これ?依頼金ヤバくない?十億?」
「しかも、そこに書いてある主な依頼はーーある地点に化物が現れるから対処して欲しいってさ」
「またまたしかもさ、あなたの名前に賭けて怪物が現れるから対処して欲しいってーーどういう意味だ?」
「わかんない。だけどーーわざわざ裏からの入手ルートでこんなの来るってことは、正規で来てる訳だから中々だよ」
※※※はそう言いながら隣へと目を向ける。だがそこにはエルドラドの姿は無かった。
「はぁ〜」
そう溜息をこぼす。すぐに少し遠くにある屋台を見てすぐにそれを追いかけた。
「まーたすぐ勝手に居なくなるんだから」
『ありがとね〜兄ちゃん!』
「うん!」
「勝手に行くのやめてくれない?」
エルドラドが笑顔で会計を終わらせ、来た道を戻ろうとするとーーそこには分かっていたように待っている※※※の姿があった。
「おっ!待っててくれたのか」
「当たり前だろ?なんで置いていくんだよ」
「さてさて」
エルドラドが依頼書を再度見つめる。
「行こうかーー此処に」
「本気?」
真剣な眼差しで依頼書を見つめる※※※。
「うん〜。行ったほうがいいと思う。それにーー」
ヘラヘラした表情は消え、真剣な表情で青空を見上げながらネギマを口にするエルドラド。
「名に賭けてーー俺の名前だとしたら、合点が行くしね」
「ま、そうだね僕の名前も基本呼ばないようにしてるしね」
「なぁーーニック、アイツは
「ん?どっちでもいい。居たら嬉しいってだけ。最初の数年はガチで探したじゃん」
「あぁ、それは分かってる。俺達、最悪な別れ方しちまったじゃん。笑って逢えると思うか?」
数秒の静寂。
ニックは吐息をこぼしながらエルドラドと同じ青空を見上げた。
「分かんない。あれからどう変わったのかも気になるけどーー嫌われるのは御免かも」
恥ずかしそうに笑みを浮かべながら見上げる二人だった。
「さて、その依頼書の期日は?」
「1ヶ月後」
「そうか。なら行こうかーーその場所まで。幸い、そこまで離れてないし」
「金もあるしね」
二人は帰路へとついて仲良さそうに帰っていく。未来に残る英断を下したエルドラドだが、その一ヶ月後ーー思いもよらない邂逅を果たす事になる。
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