閑話② 史上最高と呼ばれた10人の子供達
「おい!T60部隊!準備は出来ているだろうな?」
一人の指揮官らしき男がよく通る声で発した。
目の前にいるのは完全武装の装備をしている軍人⋯⋯実に500以上。中にはおそらく普通の一般人も混ざっているだろう。
歩兵以外にも10台以上の戦車を走らせ、そして対空ミサイルを担いでいる兵士や一般人も大量に並んでいる。
その並んでいる少し前方。そこには歴戦の戦士のような貫禄を見せる男たち数人が、簡易的に作られた長机を囲み作戦会議らしきモノを始めていた。
「さて始めよう。あまり時間が残されていない」
「それもそうだな」
「まず、私達の現在の状況についてだ」
40代後半程のオールバックの髪型をしている男が立ち上がり、地図のある部分を指でさした。
「俺達がいる現在地点がここ、トレイデン森林だ。俺達は逃げた国軍4000に満たない奴らだが、ここで始末する必要がある」
座っている一同が即頷く。
「アイツら⋯⋯俺達の秘密を握ってる。幸い、ジャミングで伝わってはいないはずだから今のところ問題ないはずだが」
直後、全員の視線が合わさる。
「もし戻るようなことがあれば──我々の敗北が確定しまう。物資の出処も、スパイの存在も」
「ここで絶対に仕留めましょう!」
「あぁ、間違いねぇ。政府の野郎共──絶対にぶっ潰してやらねぇと」
その後も会議は1時間程続いた。作戦概要や今後の計画を必死に練り、気付けば時間という時間を消費した。
──そして午後の16時頃。
「準場は出来たな?」
全兵士達ががそれぞれの隊列を成して指揮官の男の言葉に元気よく返事を返す。
「ふん」
威勢ある兵士らの返事に鼻で笑い、前方に見える森へと視線を動かす。
「これより!作戦Dを開始する!目標は、逃げた政府軍の完全なる死である!」
「⋯⋯⋯⋯」
「我々は国に頭を下げるなどといったクソッタレな行動をしないと決意したはずだ!アイツらの好き勝手にはさせん!進むぞ同胞!必ず政府軍を全滅させるぞ!」
男の言葉に咆哮とも呼べるほどの意気込みを叫ぶ兵士達の合唱。全員がやる気に満ちており、いつものパフォーマンスの倍以上は出るんじゃないかと思うほどの覇気が溢れ出ている。
「行くぞ!全班作戦通りに別れ、タイミングを見計らい──バラバラに出撃する!」
男の前に大体小隊ほどの班が3つ前に出る。
「まずは斥候を含めた突撃隊で奴らの注意を引く。そして数分後に一班ずつ追い打ちを掛けていく!終いには──メイン部隊となる重装甲歩兵と我々歩兵部隊も同時に攻める!」
小隊が見事な敬礼を見せ、森へと進行を始めた。
**
50人ほどの集団が完全武装で周囲を警戒しながら進んでいる。歩いている集団の一人の兵士が、周りに見える風景を見回しながら感想を口にした。
「やっぱここは広いよなぁ〜」
「分かるぜ?警戒態勢をとってはいるが、狙撃が狙いだったとしたら──一瞬でお陀仏だからな」
ここトレイデン森林は広さ東京ドームの30個分以上あると言われている超広大な森林地帯である。
その為か⋯⋯樹海にも感じる程異質な区域やスポットが混在している場所でもあり、なかなか視界の悪さが目立つところだ。一瞬でも気を取られれば、逆に殺られかねない場所なだけに──全員の表情は怖張り、そして緊張感が途切れることは無い。
それから草と砂利の踏む音が数十分以上も聞き慣れ、汗と腹のなる音が止まなくなってきた時間がたった頃。周囲から感じる空気感が確実に変わる瞬間が前列を歩いていた数人の兵士が咄嗟に反応し、ピタリと止まった。
「どうしたんだ?前列?」
「何か⋯⋯います。何かが」
「やっぱりか」
全員が戦闘態勢に入る。
持っている小銃を構え、周りを警戒しながら音のしない特殊な歩き方で前へと進む。
「ふぅ⋯⋯」
サイトを覗いたり外したりしながら進む一人の兵士が木々の間を歩いている。
その背後──。
「⋯⋯⋯⋯へへ」
ホラー映画にでも出演しているような顔芸を披露しながら待機しているコルト。
「んっ!!!」
通り過ぎた兵士の一人の口を完全塞ぎ、流れるような動作で地面に向かって投げながらそのまま叩きつけてホールドするコルト。
「⋯⋯ん?止まれ!!一人消えている!!」
『んんんんんっ!!!!』
塞がれている中懸命に場所を伝えようとしている兵士と、しまったと笑うコルト。そのまま持っているミニサイズのナイフで首の急所へと無駄なく突き刺す。
「そこだな!居たぞ!!」
ダダダダ!!!ダダダ!
「チッ!ひえ〜!」
大量と呼べる程の弾丸の嵐を木の背後を転々としながら避けるコルト。
「いやぁ〜中々しんどい仕事だぁ〜」
ピュンッッ!!
「あっぶねぇ〜!」
様子を伺おうとするコルトの前をライフル弾が通り過ぎる。目と鼻の先ほどで思わず笑ってしまっている。
「だけどいいのかなぁ〜?俺一人な訳ないじゃん〜」
「木など粉々にしてしまっ」
その瞬間──嘘だろ?と耳を疑う程の爆音と指揮していた男の頭、そして鮮血が舞い上がる。
見ていた周りの兵士は突然の事態に目を疑うが、兵士達もプロ。すぐさま発射元を望遠鏡で覗く。
ギギギッ。ズームは最大。
「⋯⋯ん?」
'こ、子供⋯⋯?'
一人の兵士が疑った。
見えた景色は僅か10代といえる程幼く、そしてまだ大人になりきれていない女の子。そんな人間がこちらを覗き引き金を引いている。
驚かないはずがない。確かに引き締まっている方ではある。だがそれにしては細すぎる。
あれほどの大きさのライフル──扱うのにどれほど苦労する事か。
バシャッ!!
その心の呟きを最後に、男はこの世を去った。
「なっ!なんだ!?狙撃されてるぞ!絞らせるな!!」
---?
ガチャン。
狙撃銃の再装填。手前にレバーをスライドすると弾が宙を舞って転がる。
「ねぇ?ニック」
カタカタカタ。
再装填が終わり、スコープを覗きながらグロリアがボソッと呟く。そしてその後ろで、とんでもないタイピング速度でノートパソコンを叩くニックの姿があった。
「どうしたの、グロリア」
「次は?まだかなりいると思うけど」
溜息混じりにスコープ越しに見えるコルトが必死に逃げている姿を見て一人で爆笑しながら尋ねるグロリア。
「待って」
カタカタカタ⋯⋯⋯⋯タタン。
「ここから1500の方向」
「あい」
「コルトのちょっと先に師団が見える。創一とリードが許可出してたから、弾変えちゃいなよ」
「了解〜」
近くにあるマガジンの山から一際大きいモノを手に取って入れ替えるグロリア。
ガチャン。
「これ大丈夫〜?本当に撃っちゃうよ?」
「いいんでしょ?対物じゃないしね。もしなんかあったとしても──仕方なく〜⋯⋯お願いしますよ〜って縋れば許される立場でしょ?僕達」
ニヤケながら数台のノートPCを操作しながら呟くニック。
「まぁね⋯⋯政府軍に一応属してるし?相手はテロリスト。巻き込む危険がありました〜とか言ってれば納得してくれるよね悪党ならw」
「そうそう。問題ないない。さて、今回創一に投資してもらってる試作機も中々順調だね〜」
「あ、そういえば言ってたね。私には子供が遊ぶラジコンにしか見えないけど」
ニックの周りには数台のドローンのような機械が浮いて様々な軌道でこの辺りを動いているのが鮮明に見える。
「僕が提案したんだよね。自分で言うのも気恥ずかしいところがあるけど、僕達は優秀だと思うんだ。だけど一番の欠点は人手が全く足りない所だから、機械の手助けで盤面をひっくり返す事も出来るはずだ」
「イマイチピンときてないんだよね〜」
「でもグロリア?今状況把握しているのはこの機械のおかげだよ?」
「確かに」
はにかみながらそう返事を返すグロリアに軽く眉を動かして笑み浮かべるニック。
「任せて。グロリアの補助を完璧にこなしてみせるから」
「頼もし〜!」
そうテンション爆上げの様子で構えるグロリア。
ウィーン⋯⋯ピコン。
特殊スコープN10 Ver1──。
ニックが10月に作ったからという安易な理由で付いたこの名前のスコープ。
だがこのスコープ⋯⋯そんな安易でつけられたものとは言えないほどの性能を持っている。
通常の狙撃に必要な機能の他に、体温、ミリ単位での動きを正確に測る機能、そして2キロ以上先まで伸びる拡大機能。そしてAR機能に近いPCと接続する機能を持ちあわせている。
革新的な能力を備えた、ニックが作り上げた第一制作品。
「いた──」
「おっけ〜捉えたねー」
ヴン、ヴン。
ニックのPCにはグロリアが見ている景色と同じリアルタイム映像が映り、そしてもう数台のPCには先ほど師団がいると言っていた者達が通信が入ったであろう状況を確認しているニック。
思わず舌打ちに近い弾きを見せている。
「優秀だね、彼ら。もう狙撃距離とこちらの正確な場所まで測ってきているね」
「だって相手は政府なんでしょ?」
「まぁね。創一と他のメンバーの調査と僕が潜った情報の一致具合から見ると⋯⋯ほぼ99%確実だ。おそらくプロが混じっているのもそれが理由だろうね」
タイミングしながら舌を巻いている様子で喋るニック。
「ニックがそこまで言うなんて珍しいね」
「うん。もうこっちの電波から何か得ているっぽいし、あまり時間は残されていない。向こうにも──僕みたいな奴が混ざってるぽいね。生憎⋯⋯負けるつもりはないからね」
─「おい、お前面白いから──俺んところで遊んでみねぇか?」
「生きる理由ができた今⋯⋯絶対に負けない」
「ふふ、やっぱり人間って案外生きる理由があれば何だってできるのかもね」と、真剣な眼差しでタイプするニックにグロリアがニヤケながら指示を待っている。
高速で動くニックの視線と手。1分近く動かしたあと、やっと息をするのを思い出したかのように鼻から息を深く吸っている。
「よし!おっけーだ!スコープに送った箇所を狙って、グロリア」
「了解」
レンズ越しに師団の近くに映るカーソルのような所目掛けてグロリアが引き金を引いた。
ドォォォン!!!
「「うるさっ!!」」
その10数秒後⋯⋯かなり先の方でドデカイ爆発音が上がり、2人は成功だと立ち上がった。
「お〜!いったいった」
「いいねぇ〜結構大きいねぇ」
その時、二人の無線に通知が鳴る。
「こちら遠距離隊、どうぞ」
「成功でいいのか?」
「勿論、創一」
「ナイスだ。こちらももう時期終わる。他の様子は?」
「待ってねー?」
ヴン、ヴンヴンヴン。
「うん、コルトは残った残党と戦闘中。ライアンとダリア、マキナとシェイラは任務完了」
「了解、俺達ももうすぐ終わる。終わったら久しぶりに飯でも行くか」
「本当!?」
「あぁ、久しぶりっつっても、今回の任務で行けてねぇだけどな」
無線の向こうから苦笑いが聞こえる。
「絶対だよ!」
「はいはい」
『ドンッ!ドンッドンッ!』
「悪い悪い、うるさいだろうからここで切るわ」
「了解!」
ジジ。
無線の接続が解除され、2人は完了した任務にほっと一息のおしるこの缶を開けている。
ゴク、ゴク。
「日本って凄いよねぇ〜こんな手軽なのが1ドルくらいで買えるんでしょ?」
「らしいね。確か1回旅行で10人で行ったときは、お好み焼きとか食べたよね」
「あれ美味しかったよね〜!また創一の母国行きたい!」
「任務が忙しすぎて微妙だけどね」
苦笑いを浮かべながらツッコミを入れるニック。
「でも普通のビジネスマンよりは暇でしょ〜?」
「かもね。だけど、僕はもっとみんなで仲良く過ごしたいんだけどな」
「ちょっと分かるかも。普通に過ごしたいよねぇ〜」
---?
「おい!どうなってる!」
ダダダダダダ。
数百の兵士達が困惑しながら全方位にむけて小銃を動かしながらサイトの中を覗く。
「何処から撃ってきてる!」
「いやそれよりも!周りの奴らが斬られてる!」
「はぁ!?ここは戦場だぞ!?」
周りは煙で視界が悪い。そんな中散らばっている死体を見ると首だけが綺麗に切られており、思わず変な声を上げている兵士達。
そこから少しだけ離れた大木の枝の上。そこに一人の人影が優雅に降り立つ。
「ふんっ⋯⋯アイツらは上手くやったようだ」
ジジ⋯⋯。
「Hey〜創一〜!30殺ったぞ〜?」
「やるなぁ〜リード!」
「まだまだぁ〜⋯⋯これからぁ♪Let'sparty〜♪だんッ!ダンッ!」
「集w中wして、リードwww」
無線越しに爆笑しながら息ができずに喋っているシンディ。
「やっぱロック?ヘビメタだろぉ?デーデデ、デデデ♪デデ〜!」
「「wwwww」」
死線とはとても思えない程爆笑の渦に巻き込まれている3人。
「さて、いつも通り──ぶっ潰すぞ」
「あいよ」
「了解!」
ジジ⋯⋯。
無線を切り、創一は上から見えている景色を見渡す。
ダークブラウンの綺麗な瞳が嬉しそうに動く。
「行くか──」
木の枝から棒立ちの姿勢のまま下へと降りる。
カラン♪カン、カンカン♪
降下していく中、両手に持つS-90CM&S620を中々スタイリッシュにリロードさせ、着地する。
ベチャ、ベチャ。
湿気で水溜りができている上をミリタリーブーツを履いた創一が通り過ぎていく。
「⋯⋯⋯⋯」
リチャードを笑う創一だったが、いつも聞いているであろうロックなリズムが頭の中で流れ始める創一。
DumDumDumDumDum♪
微かにリズムに乗って首を前後に動かす創一。
グググッ。
太腿に力を入れて重心を下げる。無表情のままリズムにノるその姿は⋯⋯中々シュールだ。
「Let'sCrazy」
人とは思えないほどの風圧を出しながらとんでもない速度で走り始める創一。
ダダダッ!
「撃て!撃て!」
銃撃戦。そんな中指示をしている頭上から白髪の少年が回転しながら宙を舞ってダブルタップを決め、周りの兵士達から鮮血が流れる。
「くそっ!何が起こってる!」
「さぁ⋯⋯
クールな表情から一変。楽しそうに笑うその姿は──まさに戦闘狂そのモノだ。
落ちる僅かの間に10人以上撃ち殺し、派手に着地する創一。
「始めるぞ」
そう笑いながら目の前に見える数百の兵士達に向かって喋りかける創一だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます