閑話② 発作
'なんだ⋯⋯?この痛みは'
ヒューズは一人、わけも分からずに漠然と感じる痛みを認識した。だが認識したその直後。
「⋯⋯っッ!!」
'私はあの子供に挑み、すぐに私の頭を蹴り落とされた⋯⋯はずだ!痛いに決まってい──'
そこまでヒューズが言葉を発した時、異常な痛みが襲った。
ドンッッ!!!!
子供の蹴りではない。蹴るたびにとんでもない風圧がしている。こんな威力で人を蹴ったらタダ事ではすまないだろう⋯⋯そう言われても仕方ないような蹴り。
「おい─────」
うつ伏せに倒れたヒューズを棒立ちで見下ろしながら創一は、死んだような目でボソッと吐いた。
「何倒れてんだよ」
ドクン。
ジジ──。
周囲の他の音が聞こえないくらいのノイズ音が頭の中で響いている。
ドクン。
「おい、お前大人なんだろ?」
倒れているヒューズを見下ろしながら創一の死んだような瞳は軽蔑の感情へと変わっている。
ドクン。
全く起き上がろうとしないヒューズを見た創一がギリッと創一の歯軋りを無意識にしている。
「おい──────!」
ドンッ。
創一がフルスイングで無防備に倒れているヒューズの横腹を蹴り上げた。
「守る?国の為?お前のような子供に言われる筋合いはない〜?大人が守るとか言っといて、ガキに一撃で負けてんぞ?俺は特別なことは何もしてないぞ?」
ドンッッ!
「おい、さっきお前いったよな?
創一はさっきから意識のないヒューズの横腹へと蹴り続けている。そして今度は顔面へと蹴りの軌道が変わる。
「おい!!!!」
ズドンッ。
創一の怒鳴り声と共に鈍く生々しい音が置き場の狭いスペースに響き渡る。
─「ガキなら出来んだよこんな事よ〜!」
─「子供ならこれくらいはできないとね」
─「子供だから駄目なんだよ」
─「ガキだからだよ」
「おい───大人だろ?」
瞬きのない死んだような創一の無の瞳。それが倒れているヒューズへと向き、失望しながら溜息をついている。
「おい!!!」
ズドン。
「おい!!!!」
ドゴン。
─「何?こんなこともできないの?」
「お前は大人なんだろ!?」
創一の呼吸が段々と荒れていく。
─「お前はゴミ。子供だから」
「崇高な理念とか、考えがある立派な奴らなんだろぉ?」
ドゴン!!
「さっさと答えろよゴミ!!!!!死ねっ!!!」
─「しーねっ!しーねっ!生きてる価値無い子供の創一くん!しね」
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
ドゴン!!!!
「クソみたいな大人がご立派に説教ですかっ!!!!!!早く答えろよ!ゴミみてぇなやつらが!!しね!!!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
突然狂ったように頭を掻きながら叫び蹴り上げるその姿を見たリチャードが焦る。
「やばっ!お前ら創一を押さえろ!」
「うん!」
「リチャード!創一どうしたの?」
ニックが不安そうに見上げる。だがリチャードは笑いながらニックの頭に手を置く。
「色々あったんだよ、アイツも」
「死ねっ!死ねっ」
──「しーねっ!しーねっ!」
「死ねっ!」
ハァ、ハァハァハァハァハァハァハァハァハァ。
高速で現実と頭に浮かぶ映像と音声が交互に聞こえる創一。
狂乱するように蹴る創一を全員で羽交い締めしながら止める。
「創一!大丈夫か!?」
「大丈夫だよ!創一!」
「死ね⋯⋯死ねっ!!!!てめぇら大人なんか全員死ねよ!!!クソみてぇに喚きやがってよ!!」
「創一!」
全員の大声で創一の暴れ回る動作が徐々に収まっていく。
「ハァッ、ハァー!!ハァ、ハァ⋯⋯!ハァ」
ヤカンが沸騰したような高い音が口から聞こえ、震える体を全員で暖かく抱きしめている。
─「誰か!た、たす──」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
─「ほら!子供なのにそんな事も出来ないのか?」
「ハァァァ、ハァ」
徐々に収まる呼吸。全員が必死に止める力を弱めても創一は動く事は無くなっていた。
「⋯⋯あれ?」
「創一?大丈夫か?」
リチャードやその場にいる9人が温かい笑顔を創一に向ける。創一は別人のように元の状態へと戻った。
「あー、なんか迷惑かけたな!」
「問題ないぜ?なぁ?みんな」
創一の肩に腕を絡め、全員にヘラヘラ声をかけるリチャード。
「さっ、そろそろ行こうぜ?金稼ぎによ!」
リチャードとシンディが先頭になって歩き始め、それを追うように全員が動き出した。
「⋯⋯⋯⋯」
歩き始めた最後に創一がヒューズを見下ろす。
「クソみてぇな大人が──ご立派に説教垂れてんじゃねぇよ。病気が映っちまうよ。さっさと自国を救ってくださいね〜」
嘲笑を向けながら創一はヒューズを後にした。血だらけ倒れているヒューズを無視して。
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