第9話「偶然と危険の香り。」



船が西の街に着き、ゆき達は西のアジトへと向かう。船着場にてゆきは地面に降り立った。


「はぁ~っ!着いたぁっ!」


ゆきは頭に右手を当てながら当たりを見渡す。

船着場にはたくさんの船が止まっていた。カモメも飛んでいる。ゆきは係留柱に足を乗せて顎に銃型にした手を当ててポーズを取っていた。


「ふっ、いい風だっ。」

キラッ(効果音)。カッコ着けながら海を見渡す。

「海が俺を呼んでいる。」


「おい、バカ女、何してる?遊んでる暇なんてないぞ。」

バレルに後ろから襟元を捕まれ、ずるずると引きずられる。


「あ~っ!?これするのが夢だったのにぃーっ!?もうちょっと!!」

引きずられてながらジタバタとゆきは手足を動かすが容赦なくバレルに引っ張って行かれる。ゆきは海の男的なのをずっとやって見たかったのだ。

「なんだその変な夢?!いいから早く行くぞ!」


「にゃぁ~っ!」


そのままバレルに引きずられて行った。


しばらくして街に出る。路地は入り組んだ構造をしており、脇道に逸れなどしたら迷子になってしまいそうだ。


「わぁ、ここアニメで見たっ!!凄いっ!聖地巡礼だっ!!」


きゃっきゃっとはしゃぐゆきを見てバレルはほとほと呆れかえりながらも、疑問に思った事を聞いてみた。


「“アニメ”って?」


「え?!あ、いや、何でもない!」


「?」


アニメはバレルの世界にもある。しかしそのアニメと何がどう関係があるのか訳がわからないのだ。バレルにとっては謎が深まるばかりだった。バレルは問題児の謎な言動に頭を抱える。


「おい、迷うなよ………、て、」


バレルが顔を上げるとゆきの姿はなかった。どうやらゆきはあの一瞬で迷ったらしい。


「……………あのバカッ!!」


バレルは拳を握ると勢い良く走り出し、迷ったゆきの捜索が始まった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


一方、ゆきは…………。


「あれ?バレル君?」


さっき、アニメの話しを信じて貰えないだろうと、何でもないとバレルにごまかし道を左に曲がったところからバレルの姿が見えない。

「あれ?」


まさか、………。


「バレル君、迷子?!」


どうしよう?!困ったなぁ!?

道は複雑に入り組んでいて、ここから一人で、西のアジトへ行く事は恐らく難しい。

「うーん、アニメの知識でなんとかならないかー!?」


バンッ。

急に路地から出てきた女の人とぶつかった。


「すみま………??!!」


ゆきはその姿を見て息を飲んだ。

「あら、ごめんなさい。でも、そちらも前を見てなかったんじゃない?気をつけてね?」


この勝ち気な発言にその顔、腰にはデザートイーグル。間違いない。この人はっ!

ピストレットはその少女の顔を見てどこか引っ掛かった。


「あら、あなた、どこかで……」


「ピストレットッ!!」


後ろから男が現れた。この人はっ!!

「バレット!遅かったわね?」


「ああ、途中でデリンジャーの部下に見つかって撃ち合いになってた!ん?その子は?」


「え、あっ、いや……」


ど、ど、どうしよう?!気まずいっ!デリンジャー様を助けたヤツだとバレると不味い!


「ただぶつかっただけの娘(こ)よ、それより早く行きましょう!キャノン達が待ってるわ。」


「おう!」


はぁー、ばれて……

安心したのも束の間、バレットは突如振り返りゆきを見る。

「あ、君!」


「は、はいっ!!」


「ここは危ない!早く離れた方がいいっ!」


「え、あ、あの……」


「良かったら一緒に来ないか?」


「え?えええええええっ?!?!」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「あのバカ女っ!どこ行ったんだ?!」


だいたいなんで俺があんな訳のわからない女のお守りなんてしないといけないのか……!


バレルはイライラしながもゆきを探す。もしデリンジャーの“おもちゃ”に何かあればデリンジャーに何をされるかわからない。それに……。大して銃も使えない女だ。一人にするのは気が引ける。もしなにかあっては良心が痛む。早く探さなくてはとバレルは急ぐが一向に見つからない。


「くそっ!」


バンッ。バンッ。


バレルの耳に銃声が聞こえた。


「こっちかっ!」

嫌な予感がしてそっちの方へ行ってみる事にした。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「良かったら一緒に来ないか?」


「え?えええええええっ?!?!」


ゆきはまさかの提案に戸惑いを隠せない。


「バレット、私達は追われているの。むしろ私達といた方が危険よ?」

「ん?確かにそうか……、悪いけど自力でここから離れてくれ。ごめんな?」

バレットは申し訳なさそうに顔をしかめた。

「あ、いえ、大丈夫です!ありがとう!」


そうしてバレットとピストレットはゆきを置いて路地の通路を進んで行った。バレットはゆきを少し心配そうにしながらも歩を進める。ピストレットはやはり何か引っ掛かったままだった。


「それにしてもさっきの娘(こ)……どこかで……?」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ふぅー!!」

ゆきはデリンジャーの関係者だとバレずにいられた安堵から息をつく。

二人が去って安心していると二人の男達が走って来た。


「おい、女っ!」

突如大声で話しかけられてピクリと反応する。

「は、はいっ!?」


「さっきここに男が走って来なかったか?!」

「え?男?」


きっとバレットの事だ。


「あー、えーと。」

あたふたしていると男はゆきに拳銃を向ける。

「あ?さっさと答えろっ?!」


「あっちに行きましたっ!」


ゆきが答えると男達はそっちの方へ走って行った。


「ほっ。危ない危ない。」


本当にこの世界は危険に満ちている。でもこれでバレットも無事だろう。ゆきは咄嗟にバレット達が走って行った方と逆方向を教えたのだ。血をみるのはごめん被る。


しかしすぐに男達は凄い形相で戻って来た。


「テメー!!ざけんなっ!!行き止まりじゃねぇーかっ!!」


バンッバンッ。


男達はゆきめがけて銃を容赦なくぶちまかす。


「ひえええええええっ!!」


ゆきは走って逃げる。

銃、銃っ!咄嗟に、バレル護身用に一丁だけ持たせてもらった銃を手に取る。

これでっ!!


ゆきは男達めがけて撃つがうまく当たらない。

ぎゃあああああっ?!?!


逆に男達はどんどん間合いを詰めてくる。

あたっ、当たるっ!!??


「きゃっ!!」


段差に気付かずにそのまま階段へ滑りこんだ。


「きゃああああっ!!?」


ずどどどーんっ!!


「あてて………。」

そんなに長い階段ではなかったので擦り傷程度ですんだが、痛みで動けない。落ちた銃を拾う。

しかし男達はすぐに追い付き、ゆきを追い詰めた。


「死ねっ!」


ゆきは恐怖から眼をつむる。


バンッ。バンッ。


「何やってるんだっ?!バカ女っ!!」


「へ?」


聞き覚えのある声がしたような気がして眼を開ける。するとバレルが男達の銃弾を撃ち落としていた。


「テメーッ!?邪魔すんじゃねーっ!」


男の片方は更に銃を撃とうとする。


「お、おいっ!その人っ!?」


もう一人の男はバレルに気付いたようだった。


バンバン、バンッ。


あっという間に男達の銃はバレルによって撃たれ、破壊された。


「なっ?!嘘だろっ?!」

片方の男が焦る。


「バレルさんっ?!なんでここに?!」

バレルに気付いた方はバレルが何故ここにいるのかと驚いていた。

「バ、バレル?!なんでそんな人がっ?!」


「お前達、もしかして西のアジト管轄の奴らか?」


バレルは銃を構えながらも二人に問いかける。


「は、はい。そうです!」


「何故この女を狙う?この女は俺の連れだ。」


「い、いえ、バレットを追ってたんですが…そのおん、嬢ちゃんが嘘を教えたもんで、つい。バレルさんの知り合いだったとは知らずに……すみません?!」


「すみませんでしたぁっ!!」


バレルからの問いに男達は口々に謝罪した。


「あ、いや、私こそごめんなさい。銃を向けられて気が動転してつい。バレットなんて見てないよ?」

ゆきはまた嘘をついてしまった事に罪悪感を覚えながらもバレットを助ける。


「そうでしたかぁっ!失礼しましたっ!!」


「すぐにバレットを追ってきあすっ!!」


男達はすぐに方向転換し、走って行った。


「あ、おいっ!」


バレルが止めるのも聞かずにそのまま男達は走り去っていく。

咄嗟にバレルも後を追おうとする。

「バレル君?!」


「っ!!」


何かに気付いたのかバレルは男達を追わずに戻って来た。


「バレル君?」


「バレットにリベンジ出来るチャンスだってのにぃっ!お前のせいだっ!!たくっ!」


「へ?」


「お前がいると行動出来ない。」

バレルは顔を背けながら不機嫌そうにそう言った。

バレル君本当はバレットを追いたいのに私に気を使ってくれてるんだ。でも……。

ゆきはバレルの眼を見る。

「大丈夫!バレットとの対決のチャンスはまたあるからっ!それより、態勢を整えた方がいい!」

私が銃を出しちゃったから、今の装備でバレットとやり合うより、一度アジトで態勢を整える必要がある。バレル君には申し訳ないけど……。それに……。

「っ!」

バレルは考える。

バレットがこの当たりにいると言う事はこの女の言う通りバレットが西のアジト攻略を目論んでいると言う事……。


「お前に言われなくてもそうする。こいっ!アジトまでもうすぐだ!」

バレルはそそくさと路地を歩いて行った。ゆきはその後を追う。アジトまで後少しである。

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