未来の本屋さん
国見 紀行
いざ、希望の本を求めて
冷凍睡眠装置が設定時間を告げる音楽を鳴らし、ベッドの解凍を始める。
「ああ…… ちょうど十年後か」
俺は冷凍睡眠に入る前、素晴らしい小説に出会った。しかし、その本の続きを読みたいが執筆を待つのが面倒だったので、まとめて読めるように解凍を十年後にセットし、今目覚めたというわけだ。
「さ、本屋に行くか」
施設に高い金を払って外へ出る。
「なんか暑いな」
指定季節は春先の三月。なのに道端の気温計は二十度を指していた。
「温暖化か? にしては暑すぎる」
袖をまくりながら向かった行きつけの本屋…… のあるはずの場所は、コンビニになっていた。
「え?」
寝すぎて記憶がおかしくなったのか?
俺はコンビニに入ってレジのおばちゃんに本屋のことを聞いてみた。
「ああ、確かにあったけど、七年前に潰れて
なんと、それは残念。
では、本屋はどこにあるのかと聞くと、もう近所には本屋は残っておらず、どうしても行くなら電車で三十分以上かけなければいけないという。
「嘘だろ」
しかし、そんなことではへこたれない。
急いで電車に乗り、いつの間にか記憶の十倍の大きさになった駅ビルの地下にある本屋にたどり着いた。
早速レジに行き、目的の小説を聞いてみる。
「ああ、ありますよ。最終巻の七巻まで」
俺はホッとした。
だがそれも束の間。出てきたのはPCなどに接続するような小さなメモリードライブだ。
「いや、紙の本がいいんです」
「ごめんなさい、紙の本は高価過ぎて普段お店に置いてないんです」
何を馬鹿な。
「取り寄せてください。いくらですか」
「えぇ!? 一冊十五万円ですが、本当に注文されますか?」
「はぁ!?」
馬鹿げてる。
「なんせ二年前のペーパーショックで紙と言う紙が高級品になりましたので」
そりゃ、本屋も潰れるわけだ。
俺が眠っていた十年の間に、一体世界に何が起こったというのか……
未来の本屋さん 国見 紀行 @nori_kunimi
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