その本屋、パワースポット成り

四葉翠

第1話 一冊目


ここは僕が営んでいる本屋『知られざる本達』……なんてね。本屋の名前は秘密だよ、別に名前がない訳じゃない。人によって違う呼び方もされる。最近は『幸運の本屋』って呼ばれてるね。


「あ、今日のお客さんが来そうだ」


ぎぃ、カラン♪


少し古びた扉を開け、入店を告げる小さな音が鳴る。そして扉を閉めて入って来たのは大体五十歳くらいのおじさんだった。


「いらっしゃいませ、本を一冊どうですか?( *´꒳`*)」


にこやかな笑顔と共に本をオススメする。この人は一冊で良さそうだ。


「済まないね、道に迷ってしまっただけなんだよ。この辺りに美味しいクッキーを売っているお店があるはずなんだが……教えて貰えないかい?」


「あぁ、美味しいクッキー屋さんですか。動物が描かれてるクッキーを提供してくれているお店ですよね?誰かの贈り物としてですか?」


「あぁ、娘夫婦に初孫が産まれるのでその御祝いとして贈ろうと思ってな。息子の孫と早くみたいものだ」


笑顔を浮かべながらそう答えるお客さん。少し悲しさもあるように見える。


「では一冊ほど本も一緒にどうですか?せっかくこうして本屋に来たのですから何か良い本が見つかるかも知れません」


「んー、確かに道だけ尋ねてサヨナラと言うのはあまりいいものでも無いか。それに少し置いてある本が気になってきた所だ、少々見させて貰うよ」


そう言ったお客さんは静かに店内を歩き、様々な本を見てまわる。


「ほぉ、色んな本が置いてある。どれも見た事がない物ばかり……これは来て見て正解だったようだ」


題名 『ケビンが廻る夜』を手に取り少し読むお客さん。その本は確か、不思議な経験をした女の子を見ていた幽霊が執筆した本だったはず。面白い、と言うよりはふと気付く恐怖に重きを置いた本だ。貴方が選ぶべき本では無いよ。心の中でそう優しく呟く。


「こんな事が……これは贈られない……別の本を……」


眼を見開きながら驚くお客さん、そしてすぐに贈り物にする本を探し始める。そろそろかな。


「お客さん、この本オススメですよ。どうぞ」


題名『産まれた瞬間に』執筆者は産まれた瞬間亡くなった赤ちゃんとその父親。母親への思いと生きるを空想で行った後の感想が書かれている。そして唯一残ってしまった母親や逢いたかった祖父母へのメッセージも。家族で生きると読むだけで実感できる不思議な本。


「コレは……?!何故……!?」


ボロボロと涙の流しながら読み進める。数分ほど読み終わるまで待つと涙を浮かべながらコチラを見るお客さん。


「お買い求めになられますか?」


優しい笑顔で問いかける。


「あぁ、そうさせて貰うよ。そうか、ここは普通の本屋では無かったのだな……」


その確信めいた質問には答えずにレジに本を通す。


「689円です」


利益、御利益がある様にこの本屋の本は全てりやく(689円)で統一されている。お金を受け取り本と一緒にレシートを渡す。


「…!そうか……ここが噂の本屋だったのだな……」


「えぇ、お客さんがお探していたお店の一つですよ」


「……。そうか、見通されていた訳か……」


「えぇ、それとこのお店を出て左手に行き、曲がり角を右に曲がって真っ直ぐに行くと帰れます。途中にお探しのクッキー屋さんも有りますよ」


「ははは、何から何までありがとうございます」


「いえいえ、それでは御利益が有りますように」


ぎぃ、コロン♪


お客さんが退店する音が響く。最後は晴れた笑顔での退店だったので心配は無いだろう。


「それでは、御利益が有りますよに」


そう言うと急に現れた箒を持ち店内の掃除を始める。店内の掃除が終わったちょうどその時。


「おや?今日は2人の日でしたか」


箒が急に消え、お客さんが見やすい位置へと移動する。


ぎぃ、カロン♪


お客さんが入店した音が鳴る。


「いらっしゃいませ、本を一冊どうですか?( *´꒳`*)」


にこやかな笑顔と共にまた本をオススメする。

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その本屋、パワースポット成り 四葉翠 @YotsubaMidori

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