揃門堂

武海 進

揃門堂

 今日も平凡で退屈この上ない学校生活を過ごした僕は放課後、行きつけの本屋である揃門堂へと足を運んだ。


 世界中から店長が集めた変わった本を置くこの店は中々に刺激的であり、何故か店長に気に入られた僕は立ち読みし放題なのだ。


「あら、いらっしゃい。君、毎日毎日こんな変な本屋なんかに来ずにたまには彼女とデートにでも行ったら?」


「そんな相手いないですよ。今日は何か面白いの入ってますか?」


 この店唯一の店員で学友などとは比べ物にならない程、美人で大人の女性である明日香さんが揶揄いながらも今日入ったばかりの本が並ぶ棚を教えてくれた。


 いつものことながら世界中から集めているだけあって英語どころかどこの国の言語かも分からない文字で書かれた本ばかりが棚には並んでいる。


 だが別に、非日常感を味わいに来ている僕にとっては読める読めないはどうでもよく、ページを捲ってたまにある写真や挿絵を見るだけでも充分に楽しいのだ。


 だから今日も適当に手に取った本を適当に開いたのだが、今日の非日常感は一味違った。


 開いた本からシルクハットにモノクルがトレードマークのこの店の店長の顔が飛び出してきたのだ。


「やあやあ少年、元気かね。いくら立ち読み自由でも少々入り浸り過ぎだよ君。たまにはもっと学生らしいことでもして遊びなさい」


 突然の店長に驚いて本を持ったまま固まっている僕の所に慌てて走って来た明日香さんは僕から本を取り上げると乱暴に閉じる。


「あ、明日香さん、今本から店長の生首が!」


「ドッキリ大成功! これ店長が作った飛び出す絵本なのよ」


「え、でもしゃべって動きましたよ!」


「店長ったら凝り性で採算度外視で作ったからそりゃ動いてしゃべるわよ。それよりもいつまでもこんな所で油売ってないで早く帰って宿題でもしなさい」


 未だ驚きから立ち直れない僕は明日香さんに背中を押されて店から出されてしまう。


 渋々僕は家路に着きながらも、明日もう一度あの本を読みに揃門堂へ行こうと決めたのであった。



「店長、悪戯が過ぎますよ」


 常連の少年を追い出した明日香が店に戻るとカウンターには先程本から飛び出した顔と同じ顔の男が立っていた。


「フフフ、刺激に飢えている若人にちょっとした刺激のプレゼントをしただけなんだから怒ることないだろアスタロト」


「誤魔化す身にもなって下さい! 後、この姿の時は明日香と呼ぶように」


「分かった分かった、以後気を付けるよ」


 そうは言いながらも揃門堂の主は明日も来るであろう少年に、ちょっとした刺激をプレゼントする気でいるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

揃門堂 武海 進 @shin_takeumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ