馬術仲間が欲しい

 あーこのやる気を感じ、なんとか、再びA2の鬼を目指す道を……と思いつつ、私の実力では、駈歩すら満足に出せない日々が続いていました。

 かつては、まだ何もわかっていない馬ですけれど……と言われて乗ったあーこですが、A2の経路を踏む練習を重ねて、なんとかできるようになった、それが私の自信に繋がりました。

 ところが、それはもう過去のことで、今は何もできないというのが現状です。

 あーこが、ではなく、私が、です。


 あーこはものすごく敏感でバランスにうるさい馬です。

 駈歩が出る時は、思っただけで出るような、スパッとキレのある発進をします。

 でも、その分、バランスを崩すと、すぐに速歩に落ちてしまったり、隅角を曲がれなかったり、止まってしまったり、逆に止まらなくなったりもあります。

 元々運動音痴で乗馬の方もさっぱり上達しない私ですが、輪をかけて年齢を重ねてあちらこちらを痛めてしまい、体も硬くなってしまいました。

 PCに向かってばかりも、体の老化を早めているのかも知れません。

 特に、近年は左肩を壊して体を庇い、ますます歪んで乗ってしまうようになりました。

 しかも、右脚が時々おかしくなります。坐骨神経痛なのか、坐骨から足先まで痺れが走り、時々、麻痺したようになることもあるのです。

 最近は、自転車をやめたからかマシになりましたが、一時は歩けなくなるのでは? と思うこともありました。

 滑って転んだ時には、本当に歩けなくなって、大変な目に遭いました。

 肩もリハビリと……なぜか今度は右肩を痛めて、少しバランスが取れるようになりました。

 こんな状態の私ですから、あーこに乗るだけで精一杯、そこから何かをやろうなんて、なかなか進みません。

 しかも、車での往復は体力勝負で、慣れない運転で右太腿が攣り、コーヒーで眠気をなんとか紛らわせて……で、しっかり乗ってベストを尽くす! というわけにもいきません。


 ここでなんとかA2の鬼に育てるには、私よりもずっと馬術に精通していて、馬の調教ができるような強者に、私がこれない日に乗ってもらうくらいしか、方法が浮かびませんでした。

 しかし、馬術に力を入れるよりも、養老牧場にシフトしているフレンドファームには、乗れる人はいても馬を調教しますよ、という人は不足していたようです。

 話は何度か出て、じゃあ、あーこを担当してくれる人をつける、となりましたが、なかなか現実味を帯びることはありませんでした。

 私も、シェルで何回も大会に出た経験がありますから、この調子で日々を過ごしても、あーこがA2の鬼となる日は来ないだろう、と想像がつきました。


 人に頼ろうとするのは、私の悪い癖だ。

 あーこは私の馬なのだから、私がなんとかするべきだ。


 そう言い聞かせ、今度は横の繋がりを持てないか、模索しました。

 例えば、札幌在住で通っている仲間を見つけて仲良くなれば一緒に来るという選択肢もあるのでは? と。

 お互いの馬で大会を目指すのなら張り合いができるし、色々協力もできるかも?

 しかし、そういう同じ目的を持つ人が、ゴロゴロいるわけではありません。あえて言えば、あーこと一緒の馬運車できた馬のオーナーさんですが、家が離れすぎていて、一緒に来るには難しい位置関係です。しかも、向こうは諸事情で思ったほどには通えていませんでした。

 それでも、なんとか通っていけば、そのうち、同じような目標を持って、乗馬に励んでいる人が見つかって、なんらかの協力体制ができるのでは? 馬術仲間が増えていって、皆さん、頑張りましょう! になるのでは?

 いや、なんとか、私一人でも頑張らなければ、あーこは養老馬まっしぐらだよ。


 かつては丸馬場だった場所は、他の馬とは一緒にできない牡馬の放牧場となり、草が生えていて、砂は流れてなくなっています。

 それは、乗馬をする人が減って、丸馬場を調教場所として使う人がいなくなった……ということです。

 丸馬場がないことは、グランドワークをしたい私には、ちょっと残念なことなのです。

 でも、馬を調教したい、馬術をやりたい、という人が増えれば、再び丸馬場として復活させてもらえるでしょう。

 私一人のために、それを訴えるのは……ちょっと厳しい。

 乗馬を続けるための環境を整えるのに、乗馬仲間が必要なのです。





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