あーこっこクラブへようこそ！〜競技会デビュー編

過去は消せない

　あーこは優秀なレッスン馬として使われていた馬です。

　経験もあるし、実績もある。だから、ホースフレンドファームでも使える馬になるはずでした。が！

　馬というものは、なかなか過去を忘れない動物で、一度染み付いてしまった悪癖は、何かのタイミングで顔を出してしまうものだ、という話を思い出さずにはいられません。

　私は、あーこを「誰を乗せても大丈夫な馬」と胸を張って言えるようにはなりませんでした。

　元々物見はあまりしない馬で、以前のクラブでは工事現場の横を通っても平気、クラブ外周のプチ外乗気分のコースでは、むしろ、シェルよりも信頼度が高かったこともあるあーこでしたが、もったばかりの時は、その頃とは別馬になっていました。

　引き馬でさえも吹っ飛ばされて怪我したことがあります。

　レッスン馬時代の最後は、随分と人を落としていましたが、恐怖を覚えてしまったかのようです。

　滅多に物見はしないのですが、した時はキレがいい。初心者は乗っていられないでしょう。

　ホースフレンドファームで、躓いて私を落とすこと１回、物見でまこさんを落とすこと２回、そして……あーこに会いにきてくれた人を人馬転させてしまいました。

　その人は競走馬関係の仕事をしている、いわば馬のプロです。

　仕事で馬に乗っているのに、オフも馬に乗りに来るとは、よっぽどの馬好きですね。

　彼にあーこを乗せた時、腹帯を締めようとしたら、大暴れして尻餅をついてしまったのでした。

　落馬というよりは、馬が尻餅をついたので降りてもらった、という形です。

　全然強く締めたわけじゃないのにな、と、その人もショックだったようです。

　私も、ショックでした。

　あーこはよく人を乗せたままゴロンと寝ていましたが、しばらくその悪癖は影をひそめていて、すっかり直った！　と思っていたからです。

　直ったからではなく、私もまこさんも、細心の注意を払っていたので寝なかった、というだけだったのです。

　多分、腹帯嫌がりますよ、と前もって忠告していたとしても、知らない人が乗って締めたら、同じことをしてしまうだろう……という不安がよぎりました。

　私やまこさんがついていて、しっかり注意を払っている中でなら第３者を乗せることができるけれど、そうでない場合は、何かやらかすかもしれない。

　過去にあった嫌な出来事がフラッシュバックして、突飛な行動をさせてしまうのです。

　あーこは、人間に対して、まるで侍みたいに忠誠心の高い馬ですが、私は信頼を置ききれずにいました。

　こうして、ホースフレンドファームでレッスン馬として時々使ってもらい、人々に乗馬の楽しさを伝えてくれるような馬になってもらったら……という私の希望も打ち砕かれてしまいました。