強いのか弱いのか、さっぱりわからない

 放牧場でのあーこは、強いのか弱いのかさっぱりわかりませんでした。

 一時期は、強くてボスの座を取るのかも? とも思えるようなところもありましたが、ナンバー2の馬には頭が上がらないようで、狭い場所に2頭で放されていると、乾草を全て奪われて、離れてじっとしています。

 時には追いかけられて、庇ってくれる馬がいなければ逃げ回ってもいました。

 かと思えば、仲間を引き連れて、先頭で林の中へ入っていくなど、勇気あるところも見せていました。


 自分からベタベタついていくのはいいけれど、他がベタベタしてきたら怒る……は、人間に対しても馬に対しても一緒のようです。

 その割に、孤立している風でもなく、仲良くしたがる馬がたくさんいました。

 下と思った馬には礼儀を欠いたら怒る、上と思った馬には礼儀を尽くす、しかし、誰か他の馬と連んで格下の馬をいじめて歩くみたいなこともせず、ちょっかいもかけず、その生真面目さが他の馬に好まれたのかも知れません。

 騸馬ではありますが、女の子には興味があるらしく、特に栗毛の女の子が大好きでした。お母さんが栗毛なので、重なる部分があるのかも知れません。以前の乗馬クラブでも、一途に思いを寄せていた牝馬は栗毛でした。

 栗白斑のポニーにも随分と気に入られていて、あーこが歩いていると、走りよってきました。



 あーこに乗る日は前もって連絡しておかなければなりません。

 連絡していても「乗る」と言っておかなければ、放牧出しちゃった! ってこともありました。

 そして、放牧に出されてしまうと、かなり広い放牧地なので、捕まえにいくのは大変で、乗るのを諦めなくてはなりません。

 まだ、その流れに乗れていない時は、うっかり言い忘れて、せっかく遠くから来たのに、あーこは放牧場の遥か遠くで草を食べるのに夢中、ってこともありました。


 運動後に放すと、一目散に仲間の元へと走っていきます。

 広い放牧場の緑の絨毯の上を、気持ちいい蹄音を響かせて走っていく姿を見ていると、ここに決めてよかった! と思えてきます。

 通うのは大変ですが、あーこの幸せのためには、良い判断をしたな、と思えてなりませんでした。



 馬房の関係で、あーことシェルは別々の場所に置くこととなりました。

 ですが、移動時間のことを考えると、どちらか一方に馬を集約した方がいい、とは、最初から考えていました。

 この時点では、これだけ悠々自適な生活を送っているあーこを、再び大半を馬房で過ごす生活に戻せないかも? と思い、さらには一向に故障が癒えないシェルに頭を悩まし、このまま引退……の文字もちらつき、2頭一緒にホースフレンドファームに置くべきかも? と考えていました。

 踏み切らなかったのは、シェルを少しでも自分のそばに置いておきたい、わがままかも知れないけれど、まだ引退させたくない、という気持ちが私の中にあったからです。

 片道2時間近い距離を思えば、頻繁に通うことはできず、私の乗馬ライフの終わりを意味するのだろう、という諦めに近いものがありました。

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