シェルの引っ越し

 シェルの引っ越し先も決まっています。

 私が一度はやめた乗馬を再開したクラブ、私が目から鱗の乗馬ライフに目覚めたクラブです。

 当時の社長はもう引退していて、別のインストラクターが場長として経営していて、また雰囲気が変わっていました。

 このクラブは、我が家から今までのクラブとさほど差のない距離にあります。でも、交通機関は1日に1本程度で、夏の間は自転車で、冬はその限られたバスで、そして帰りは同じ方向の人に送ってもらう、という日々でした。

 車がないと、冬は通うのに厳しい場所です。

 ところが、車は購入したものの、昨今のレアメタル不足で納車が1月と言われ、ヒョエ! どうしたものでしょう。

 引っ越しは馬運車の手配がつき次第、ということとなり、最終的には8月13日の金曜日に(うわ!)決まりました。


 その間、真夏の暑い日々が続き、私は早朝乗馬でシェルの元へと通いました。

 でも、シェルはずっと故障気味で調子が悪く、乗っても常歩までとか、10分とか、乗らずに回すだけとか、ついには馬房掃除に通うような感じでした。

 私もコロナワクチン接種でダウンした日もあり……でも、今から振り返ると、今現在よりも随分と頑張っていたんだな、と思います。

 午前中はシェルに乗り、もしくは馬房掃除だけでも、午後から白老まで行く、ということをしていたのですから。

 車のない私は、夫をそそのかしてドライブがてら白老に行ったり、まこさんの車に乗せてもらって一緒に行ったり、を繰り返していました。

 J Rで通うことも考えていたのに、結局、一度も使うことはありませんでした。

 誰か彼かに連れて行ってもらって、の日々でした。


 シェルの故障は、乗っている私だけが「変だ!」と思うもので、側から見ていると「よく動いているんじゃないか?」と思うくらいの状態でした。

 なので、周りで見ている人からは「もっとしっかり動かそうとしないからじゃないか?」というアドバイスばかりで、考えすぎ、思い込みすぎ、甘やかしすぎと思われているらしく、孤独で辛い時期が続いていました。

 シェルに乗る回数もどんどん減っていき、ほぼ毎日乗っていたのが週3回、2回と減っていました。

 今から思えば、もっとしっかり休ませても良かったのですが、そうした方がいいよ、と後押ししてくれる人もいず、自分の判断に自信が持てず、迷ってばかりの日々です。

 このクラブでは、私の考えはちょっと毛色が違っていたらしく、特に煙たがられた訳ではありませんでしたが、仲間と呼べる人が少なくて元々孤独でした。

 馬に一生懸命乗ろうとしない人、ただ、馬と遊んでいる人、と思われていたと思います。


 引っ越しの前日、もうすっかりあたりは秋模様になりつつあり、赤とんぼが飛んでいました。

 もうここでの最後だからしっかり乗ろうと思いました。

 しかし、その日の騎乗は、シェル史上最悪で、なんと10回もいななき、最後はシェルの大好きな外乗コース草パクパクタイムもすることなく戻る羽目になりました。

 ものすごく凹みましたが、今から思えば、いよいよ、人を乗せるのが辛くてたまらない、もう限界だ、ってところまで、シェルは追い詰められていたのだと思います。


 もうすでに、何度も何度も後悔していることではあるのですが、自分の信念や今までの経験に基づく直感みたいなものを信じることができず、「馬にわがままをさせて喜んでいる人」と周りから言われたくないがために、見誤っていたのだと思います。

 その自信のなさは、私の欠点……乗る方はさっぱり上手ではない……という劣等感からきているもので、「ちゃんと乗れないから馬が馬鹿にしているんじゃない?」を、完全に否定しきれないからなのです。

 もっと自分自身が積み重ねてきたことに、自信を持たないとダメですね。


 引っ越しすることは決まっていて、少しずつ荷物を片付けていたものの、突如日程が決まったので、前日は乗り終えた後、荷物まとめに大忙しでした。

 なんせ12年間も在籍していたのですから、何かと荷物が溜まってしまったのでした。遅い時間までかかってしまいました。

 そして、朝、来てみたら……私が出した荷物の後に、もう別の人の荷物が置かれていました。鞍置き場にも、もう別の鞍が置かれていて、なんだか出ていくのを待っていたような、いたたまれない気持ちに。

 まぁ、私が出ていくことを決めたのだし、サクッとものを進めるのは合理的で良いことではあるんですがね。

 喧嘩して出ていく訳ではないし、仲良くしてくれた人もいた訳なので、時々は遊びにこよう、馬の顔を見にこようとも思っていたのですが、なんだか顔出ししにくい気持ちになってしまいました。

 私自身、2カ所のクラブを梯子することになり、その余裕もなかったのですが。




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