三章

第48話 もーどーしーてー


 エメラルダは運に恵まれたと思う。


 ただの一兵卒で特に武功を挙げたわけでもないのに、何故か抜擢されたのだから。


 特段の才があったわけでもないし、本当に幸運だったと言わざるを得ない。


 なので少しくらいの苦労はむしろ当然というか、艱難辛苦に襲われることも覚悟しないといけない。


 …………と覚悟はしていたけど。


「エメラルダ、お前を旧ヴォルガニア領の代官に任命する! 広い土地だが頑張って統治して欲しい!」


 私は王都ラレンティアの王城の一室で、フーヤ様からそんな意味不明な命令を受けた!?


 これはあんまりだと思うんですけど!?


「ま、待ってください!? フーヤ様!? なんで私が旧ヴォルガニア領の代官なんですか!? どう考えてもフーヤ様がやるべきでしょう!?」

「俺はこれからやることがあるんだよ。少し世界を回っての人材集めに、我が国の三方面の国への侵攻……旧ヴォルガニア領を見る余裕がない」


 フーヤ様は超有能なお方だ。


 まるで敵の思考を読むかのように動き、しっかりと結果を出すのだから。


 でも私の扱いは雑じゃありません!? 旧ヴォルガニア領の代官は無茶ぶりですよね!?


「安心してくれ。俺だってエメラルダだけで、旧ヴォルガニア領を面倒見切れるとは思ってない」

「そ、そうですよね……私は綾香さんの手助けとかでの話……」

「シャルロッテあたりをつけようか」

「つければいいってもんじゃないですよね!?」


 シャルロッテ様はダメっ!? あのお方はむしろ邪魔になる可能性が高い!


 いや盗賊退治とか強盗退治とか蛮族退治なら役に立つかもだけどっ! あの人は常に戦を与えておかないとなにするかわからないもの!?


「わかったわかった。副官にダンティエルとローニンをつけよう」

「!?!?!? その二人、ヴォルガニアの両脚ですよね!? どう考えても私より経験豊富で優秀なお方たちですよね!?」

「エルス国では入ったばかりの新人だから。一兵卒みたいなノリで使っていいぞ」

「どう見ても私より上の立場の人ですよね!?」


 私はフーヤ様のことよく分かってないけど! 今回は本当にまったくもって理解できないっ!?


 間違ってるでしょ色々!? なんでつい数ヶ月前まで一兵卒の私が、他国の英雄を顎で使う立場に!?


「だってダンティエルもローニンも元敵国の武将だろ? いきなり出世はさせられない。必然的にエメラルダの方が役職が上になる」

「そ、それはそうですけど……フーヤ様の下で使うべきでは!? あるいは綾香様やシャルロッテ様が!」

「さっきもいったが俺はこれから人材集めと、周辺国への対応が主になる。その補佐で綾香は必須だ」

「シャルロッテ様は!?」

「確かにシャルロッテも役職の偉さだけならいけるけど……あいつに統治ができると?」

「あ、申し訳ありません……」


 確かに理屈は分かる。


 ダンティエルさんもローニンさんも、敗戦国の武将でしかない。


 彼らが事前に報酬を約束に寝返ったとかならともかく、そうでないならいきなり入ってきた新人に好待遇は与えづらいだろう。


 信用がしづらいというのもあるし、なんの功績も挙げてない者を迂闊に出世させると周囲が不満を抱くからだ。


 例えば「俺の方が手柄を挙げているのに」とか、「俺の方が先に出世すべきだろう」とか。


 ……なので本来なら私も今の役職などあり得なかった。だがフーヤ様の場合、そもそも臣下の数が足りていない。


 なのですでに雇っていた臣下を昇進させねばならず、結果として私が重用されてしまっている。


 それはすごく望ましいことなんだけど……なんだけど……!


「エメラルダ、俺はお前に言ったな。出世したいと。なので出世させているのだが……どうしても嫌なら他の者にするのも考えるが」


 フーヤ様はそんな私に淡々と言い放ってきた。


 実は私は以前に、フーヤ様に望みを聞かれたことがある。シャルロッテ様の下で暴走兵士として働いていたころに。


 その時に「出世したいです!」と言ってしまったのだ。


 あの言葉は嘘ではない。立身出世して偉くなって、両親に楽をさせてあげたいのは事実。


 …………ここで嫌と言えば楽になるかもしれない。でもっ……出世……したい”ッ……!


「い、いえやります!? やらせてください! このエメラルダ、粉骨砕身でガンバリマス……!」

「そうか、やってくれるか。なら任せた! ダンティエルもローニンも優秀な奴だからこき使ってくれ!」

「できません!?」


 こうして私は旧ヴォルガニア領を統治することになった。


 さっそく旧ヴォルガニア王都の王城に出向き、執務室の椅子に座った。


「エメラルダ殿! 我が名はダンティエルと申す!! よろしくお願い申し上げる!!!」

「ローニンでございます。どうぞ牛馬のごとく扱いください」


 私の目の前には、下手をすれば私の父親くらいの人達が立っている。


 いや下手しなくてもたぶん父親とあまり変わらないのでは……お父さんが十七歳の時に私が生まれて、今の私は十五歳だから……。


「え、えっと……よろしくお願いいたします……ダンティエルさんにローニンさん」

「エメラルダ殿! 臣下にへりくだってはいけませぬっ!」

「他への示しがつきません。どうぞ呼び捨てで」

「だ、ダンティエルにローニン……よろしくお願いします」


 私はたぶん父親より年齢が上の人達に、呼び捨てで告げる。


 えーん! やっぱり戻りたい……フーヤ様の臣下だったころに戻してー!?



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あれでしょ。プロ野球のヘッドコーチが、監督より年上みたいなもんでしょ(

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